8-1




 ……どうしてこんなことに。ガンガン痛む頭でそう思った。
 竹下さんの家。竹下さんの匂い。
 竹下さんの車は芳香剤か何かのいい香りしかしなかったけど、部屋は違う。正真正銘の、竹下さんの匂いがする。

 そう思ったら、呼吸もままならない。キョロキョロ部屋を観察したいのは山々だが、そうできない俺は直立不動でただただ自分の指先を見つめていた。モジモジと動かしてしまう手を、影絵の犬とかに変えて、何とか平常心を保とうとする。だけど、犬とか作ってる時点でもう平常心ではない。


「なに突っ立ってんの。横にならないと」


 と、示されたのはやっぱり竹下さんのベッドで。この間、何とか回避したその禁忌を、今ここで、竹下さんの目の前で犯すのか。
 鼻息とか荒くなったらどうしようとか、思いがけないようなことを俺はしちゃうんじゃないかとか、思い悩んでいる間になんだかんだでベッドの上に座っていた。


「暑くない? 今エアコン付けたけど、しばらく我慢して。もし寒くなったら言ってね」

「あ、りがとうございます……」

「ほら、横になって。楽にしてて」

「……はい」


 竹下さんのベッドに、横になる。たぶん俺は変な顔をしていることだろう。身体も何もかもガチガチだ。


「水、持ってくるね」


 ふわっと髪を撫でられた。竹下さんに、触れられた。何かもういっぱいいっぱい過ぎて、逆にどんどん具合が悪くなっているような気さえする。とにかく、頭がすごく痛い。


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