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追加で頼んだビールや酒類と一緒に、竹下さんの分のグラスとおしぼりが運ばれてくる。回されてきたビール瓶を受け取って、竹下さんのグラスに注いだ。
「バイト、お疲れ様っす」
「ありがと。乾杯しよっか」
「あ、はい!」
「乾杯」
竹下さんと乾杯。竹下さんと、乾杯!
キンッというグラスの音まで特別に聞こえる。自分の手じゃないみたいにぎこちない動きで、何とかグラスを口に運びはしたけれど、ビールの味は全く分からない。
「さっき楽しそうにしてたね。あの女と何話してた?」
「さっきっすか? ……ああ、竹下さんのことをかっこいいって仰ってたんで、同意をしてたっす」
「ふーん。同意してたんだ?」
「そりゃ、するっすよ。否定する理由がないっす」
「他には? どんな話した? さっきの女以外とも喋った?」
「他っすか? んー、特にこれと言った話はしてないと思うんすけど……ちょっと思い出せないっすね」
何か喋ってたのを聞いてはいたんだけれど、興味がある話だった訳でもないのではっきりと覚えていない。適当に相槌を打って、ヘラヘラしていただけ。それで女性というのは話を聞いてもらっている気になるらしいから、楽だ。
「最近、よく合コンに参加してんだって?」
「そっすね。新しい出会いが必要とかって、霧島さんが誘ってくれるんで」
「新しい出会いが欲しいの?」
「そういう訳じゃないんすけど、……出会えたらいいなとは思ってるっす」
竹下さんに。
『出会う』という表現は少しおかしいけど、それが合コンに参加する最大の理由だ。あとは断れなかったとか、霧島さんの顔を立てるためとか、そんな感じ。
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