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 朝が来る少し前に、目が覚めた。隣で眠っている女に目を覚まされるのが面倒で、起こさないようそっとベッドから降りる。
 物音を立てないように服を着て、そのまま部屋から出た。鍵が開けっ放しになるが、問題ないだろうと放っておく。

 自分という人間は、女に対してとにかく淡白だと思う。
 ごく稀にいい女だと感じることがあっても、一晩寝て起きるとどうでもよくなる。教えられた番号に連絡する気など起きず、連絡することでこちらの番号を知られたくないと思う。
 その場の勢いでヤっても、だから何だという話。寝て起きれば、さようなら。

 望んでいる訳ではないのだが、『無駄に整っている』と言われる顔のせいか言い寄ってくる女は少なくないし、一般的に見て、俺は多くの女と関係を持ってきたと思う。
 でも、女という生物は好きではない。今の自分にとっては得られるものもあまり無い。とにかく面倒な生き物だから深くは関わりたくない。欲求の処理をする相手。ただそれだけ。


「竹下さん?」

「……雪田」

「こんなとこでどうしたんすか? つーか、いつもとなんか感じ違ったんで声掛けようかちょっと迷っちゃいました」


 眉を下げて笑う雪田。ヘニャっと笑う雪田の顔を見ると、なぜか気分が高揚する。


「雪田ん家このへんなの?」

「そうすよ。今ちょっとコンビニ行ってきたとこっす」

「ふーん」


 言われてみれば確かに、服装に気合いが入ってない。いつもはカジュアルそうに見えるが、実は身に付けているアイテムにこだわっていて、かなりセンスはいいと思うし、よく似合っているとも思う。髪型は長めの前髪を右目の上で分けて左に流している。右側は耳にかけてすっきりさせて、左は自然に流しつつ毛先を遊ばせている。襟足を気にして触ったり、ねじっているのをよく見るから、あのハネ具合にこだわりがあるんだろう。
 まあ、今はぺったんこだが。


「今、暇?」

「えっ、あ、今すか? 午後まで何も予定はないすけど」

「じゃあ雪田ん家で寝かせてくれない?」


 そう言うと、しばらくポケッとした表情をして、みるみるうちにヘニャっとした笑顔になった。
 朝たまたま会ったそれ程仲が良い訳でもない大学の先輩に、いきなり部屋で寝かせろと言われてする表情ではない。

 だけど、それが妙に俺の気分を良くさせた。


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