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 入学式のあと。大学の広場にいた竹下さんに目を奪われた。めんどくさそうにチラシを配っている姿を見つめてしまったのは、きっと俺だけじゃないはず。
 キャーキャー言いながら竹下さんに群がる女性たちが羨ましくて、何もできない自分が不甲斐なかった。
 せめて声くらいは聞けないかと思って、ただ通るだけを装って近くを横切ろうとした時。


「野球興味ない?」


 手を伸ばして、俺にチラシを渡してくれた。俺は受け取って即答した。


「あるっす!」

「今晩、新歓コンパやるから、時間あったら来て」

「はい!」

「参加するならあっちのバカそうな奴に言って。連れてってもらえるはずだから」


 竹下さんは、絶対覚えてないと思うけど、それが竹下さんとの記念すべき初めての会話だった。その日の新歓コンパでも、それ以降の霧島さん主催の合コンでも、部室にたまに来られた時も、竹下さんと話せたことなんかほとんどなかった。
 今朝、心臓が壊れそうなくらい脈打って、胃がねじ切れそうなくらい緊張しながら声を掛けるまでは、まともに会話したことなんてなかったんだ。

 だから、俺の顔を見て『雪田』って言ってくれた時、全身が熱くなって、うっかり泣きそうになった。
 俺の名前、覚えててくれたんすね。
 すげー嬉しかったっす。


「自由にしていいんならさ、俺も参加していいんだよね?」

「もちろんっすよ! 男ばっかのムサい集まりっすけど」

「じゃあ、れおが行く時は、俺も誘って?」


 その笑顔で『怜央』は反則っすよ。
 自分の名前、嫌いだったはずなのに。


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