4-2
「俺の下の名前っすか」
「うん」
「……えーっと」
「なに、俺には教えたくない?」
できれば誰にも教えたくない……けど、竹下さんが俺なんかの名前を知りたいと仰るのであれば、やぶさかではない。
「怜央、っす」
「れお?」
「誰にも言わないで下さいね? 俺あんま気に入ってないんすよ、名前」
「誰も知らないの?」
「基本『ユキ』で通ってるんで。知られてないはずっす。自分から積極的に言わないし」
「ふーん。じゃあ、れおって呼ぶのはだめ?」
「竹下さんが、そう呼びたいと思われるのであれば……それでも、いいっす、よ」
竹下さんが俺の名前を呼んでくれるなら、何でもいい。たとえ、ある有名漫画家の作品の主人公から取ったなんていう理由で付けられた名前であっても。
でも、竹下さんがそう呼んでくれるのを誰かに真似されたら……腹立つ。ものすごく。
「やっぱやめた」
「へ?」
「雪田のままでいいや。知られたくないんだもんね。その代わりさ、こうやって2人でいる時だけ、れおって呼んでもいい?」
「はい。それは、全然いいっすけど……」
「何なら俺のことも紘基って呼ぶ?」
「いや! それは! 恐れ多いっす!」
「何だそれ。まーいいけど」
何なんだ今日は。これは夢か? 朝、竹下さんに会ったとこから全部夢なんじゃ?
竹下さんの寝顔を何時間も眺められたりとか、竹下さんとドライブとか、俺と喋って笑ってくれたりとか!
夢なら醒めないで。現実ならどうかどうか今日これっきりで終わらないで。遠くから眺めてるだけで幸せだったのに、もうそれだけじゃ満足できなくなってしまうから。
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