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 竹下さんの車に乗ってる。助手席に。2人きりで。夜に。ドライブ。運転してる竹下さんまじかっこいい。
 竹下さんがどこを目指して車を走らせているのかは分からないが、そこに触れる気はない。いらないことを言って、この時間が終わってしまうのは全力で避けたい。
 何か別の話題を提供しなければいけない。


「竹下さん」

「んー?」

「竹下さんの携帯番号、登録してもいいすか?」

「え。してないの? してよ」


 思いの外前向きな答えが返ってきたので、その場で携帯を取り出して、履歴から登録をする。

『竹下 紘基』

 自分の携帯の連絡先に竹下さんの名前がある。思わずニヤけそうになるが、変に思われると嫌なので、自然に振る舞おうと話を振る。


「俺、フルネームで登録する派なんすけど、竹下さんは……」

「ん? 俺の下の名前?」

「あ、竹下さんの下のお名前は知ってます。そうじゃなくて……」

「え? 俺の名前知ってんだ。なんで知ってんの? 自己紹介とかしたっけ?」

「いや、どうでしたかね。ちょっとなんでかは覚えがないっすけど、知ってることは知ってます」


 言えない。何で知ったかなんて、絶対言えない。


「へー。で、俺の下の名前の話じゃないなら、何を言おうとしたの?」

「あ、えっと、竹下さんはどういう風に登録する派っすかって聞こうとしただけっす」


 すっげーどうでもいいっつーか、何でそんなこと聞くの? って感じの話題だ。むしろ竹下さんの下の名前を知らない振りして教えてもらった方がよかった気がする。


「俺は、呼び名で登録する派」

「そうなんすね。じゃあ、霧島さんだったら?」

「ひらがなで『じゅんぺー』。漢字とか知らないし。何だろ? 純粋の純かな。順番の順かも」

「あつしって読むやつっすよ」

「ああ、その淳か。でも俺すぐ忘れそう。雪田は?」

「俺が何すか?」

「下の名前。何てゆーの?」


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