35-3




「……だから、竹下さん。俺の気持ちが迷惑ならそう言って下さい。そんな自分を卑下するようなことを言って、……俺が自分から竹下さんを諦めるようにしてるんすか? 俺、竹下さんにご自身を悪く言わせるほど気を遣わせて……こんな風に泣いたりして、自分が許せないっす。そもそも俺が悪いのに、それでも嫌わないでなんて虫のいいこと俺が言ったから困らせてるんすよね」


 違う。そうじゃない。雪田にそんな顔をさせたい訳じゃない。
 何で上手くいかない? 俺はただ、雪田にとっての最善の道を雪田自身に選んで欲しいだけだ。その道の先に俺がいると雪田に思って欲しいし、はっきりそう言って欲しい。そうしたらやっと、俺も好きだって言えるから。


「さっき俺、竹下さんが気持ち悪いって仰るなら忘れますって言いましたけど、本当は無理っす。俺はきっとまた自分の気持ちを隠すだけっす」


 頑なに『好き』とは表現しない雪田。どうしてこんなにすれ違ってしまうんだろう。気持ちは一緒のはずなのに。求めているものは違うのだろうか。


「竹下さんへの気持ちを忘れる方法があるんだったら知りたい。そしたら竹下さんといてもこんなに苦しくない。ただの後輩になれる。なのに、ずっと、いつまで経っても、俺の目は竹下さんを追ってしまうし、俺の頭は竹下さんを中心に回るし、俺の心には竹下さんしかいないんすよ。嬉しいのも悲しいのも全部全部竹下さんのことばっかりなんすよ。十年後の未来に俺が想像できるのは、それでも竹下さんを想い続けて一人ぼっちな自分だけっす」


 もう無理だ。どこか冷静な自分がそう思った。そんな冷静な自分が驚くくらい性急な動きで、俺の身体は雪田の隣まで行って、強引に雪田を抱きしめていた。


「た、竹下さ……」

「好きだよ。れおのこと、すげー好き。俺のことを諦めて欲しくなんかない。ずっと俺だけを見てて欲しい。俺だけがれおを独占してたい。……だけどそれで、れおは幸せになれる? 俺、もう離れる気になんてなれないよ? れおが女と結婚して子供が欲しいって思ったとしても、それを許してあげないよ? それでもいいの? 一生俺の恋人でいてくれる?」

「え……? え、……と。……え?」

「俺、まじで嬉しいんだよ。れおがずっと想っててくれたのが俺だったこと」

「うそ……」

「嘘じゃないよ。言ってるでしょ。俺はれおに無理も後悔もさせたくないんだ。だからさ、れお。俺はれおと恋人として一緒に生きていきたいと思ってる。だけどこの先ずっと俺のそばにいることを、れおも幸せだと思ってくれる? 本当に心から、そう思える?」

「俺……この先何があっても絶対、竹下さんのそばにいられるなら、幸せ、っす……!」


 俺の背中に雪田の腕が回る。それが嬉しくて俺もさらにギュっと抱きしめると、少しだけ雪田の身体が強張った。自分とそう変わらないしっかりとした男の身体だけれど、でも、守ってあげたい。そんな気持ちになって、自然と髪を撫でていた。


- 139 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -