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「落ち着いて話がしたいから、俺ん家でもいいかな?」

「あ、はい。どこでも」

「うん。じゃあ、俺ん家に向かうね」


 道中は無言だった。竹下さんの車は音楽も掛けられていなくて、ただただ走行音だけが流れていた。自分の心臓の音がうるさい。苦しいくらいに緊張が高まってる。
 竹下さんの家に上がり、ソファに座るよう勧められた。竹下さんはテーブルを挟んだ向かいの床に直接腰を下ろす。


「すいません、場所変わってください。竹下さんを床に座らせて俺がソファに座るわけにはいかないっす」

「いや、この方が落ち着くから、気にしないで。……それでさ、話なんだけど」

「……あ、はい」


 座る位置なんてどうでもいいから早く座れと言われている気がして、大人しくソファに座った。
 どんな話をされるのか。その緊張やストレスで、俺の胃やら腸やら心臓やらが全て、尋常じゃない痛みを発している。


「今日、成人式のあと中学の同窓会があってさ。俺は中学も高校も一緒だった奴と喋ってて。そん時、そいつから高校ん時の卒業式の写真をもらったんだ」


 何が言いたいのか、今はっきりと分かった。


「……その写真に、俺が写っちゃってたんすね……」

「うん。何で同じ高校だったって、言ってくんなかったの?」

「……竹下さん。何でかは、分かるでしょ。分かってて、聞いてるんすよね?」

「もしかしたら、とは思ってるんだけど」


 呼吸が上手くできない。頭に熱が集まって思考すらまともにいかない。どんどんと目が潤んでいくのが分かる。心臓が、痛い。


「俺の勘違いだったら、そう言って。……れおが大学まで追いかけてきたのは、……俺?」


 違うと言えば、嘘を吐くことになる。嘘は吐くなと三木さんに言われたし、俺だってそうしたい。
 こうして、竹下さんはちゃんと俺に向き合って俺の気持ちを聞こうとしてくれてる。今、嘘を吐けばもう二度と伝えることはできないだろう。
 だけど……嫌なんだ。嫌われるのだけは、どうしても嫌なんだよ。嘘吐きになったっていい。三木さんと小野さんの気持ちを裏切ったって構わない。竹下さんに嫌われなきゃ、何だっていい。


「れお? 俺の目見て? 俺、怒ってるんじゃないよ?」


 竹下さんの目を見ることはできない。そんな勇気はないし、たぶん目が合った瞬間に泣いてしまう気がする。
 でも優しいその声色に、今この時を嘘で逃れることもできないと、そう思った。嘘を吐けば竹下さんはきっと俺に失望する。好きだと言えばきっと軽蔑される。どっちだって同じだ。それならもう……懇願するしか、ないだろ。


「……俺は、竹下さんがいるからあの大学に入りました。竹下さんに少しでも近付きたくて、サークルにも入りました。今まで、隠しててすみませんでした! ……竹下さんが気持ち悪いと仰るなら、きっぱりと忘れます。だから、どうか、俺を避けないで下さい。特別なことは何も望みません。後輩としてでいいんです。また前みたいに仲良くして欲しいだなんて言いません。ただ……都合がいいかもしれませんが、嫌わないで欲しいんです」


 何という後ろ向きな告白なんだろう。しかも俺は、こんな場面になっても『好き』という言葉が言えないらしい。
 すみませんと謝った時に下げた頭を上げることさえできずに、ただ竹下さんの言葉を待った。


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