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成人の日で大学が休みだからと、モトとニーナと俺の3人で三木さんの下宿先にお呼ばれした。当然のように小野さんもいて、先に寛いでいたのには少しだけ驚いた。5人で野球ゲームをするだけだったけれど、すごく盛り上がったし、楽しかった。
夜になって、そろそろ帰ろうかということになった時も、当然のように小野さんは見送る側で。小野さんも帰って下さいよ、と言う三木さんの言葉は堂々のスルーだった。
三木さんの部屋を出てすぐに、携帯を忘れたことに気付いた。ほんとにすぐだったから、鍵がかかってないことも音で分かってた。完全に俺の配慮が足りなかったことは認める……んだけど、先輩達だってもうちょっと気を付けてくれたっていいと思う。
「……すいません、携帯忘れちゃったみたいで。……入っても、いいすか?」
玄関先で、小野さんと三木さんが思いっきりキスしてる真っ最中で。俺はインターホンも押さずにバーンとドアを開けちゃった訳だし、悪いのは俺の方なんだけど。でも言いたい。ものの数秒でそんな雰囲気になんないで下さいよ。
「おー、わり。入っていーよ」
「入っていいよじゃないですよ! だから先に鍵閉めさせろって俺は言ったんですよ!」
「ごめんって。ユキも、ごめんな? 変なもん見せちゃって」
「え! 変とかじゃないっすよ全然! ただなんかちょっと知ってる人同士のそういうのはなんか動揺するっつーか。俺の方こそ邪魔しちゃって申し訳ないっす」
正直言って、小野さんと三木さんがそういう関係だということは分かってたし、その2人がキスをすることが変だなんて思わない。
それは当然、俺が竹下さんを好きだからだけど。そうとは知らない先輩達は、俺に見られたことや見せたことをこのまま気に病んじゃうのかなと思ったら、すげー申し訳ない。
「俺、まじで変だなんて思ってないっすから。むしろ先輩達のことは羨ましいなって思ってるくらいだし。ほんとに、邪魔してすいませんっす」
「や。なんか、悪いの俺らっつーか、俺だし。そんな謝ったりしなくていいんだけど。えーっと、ユキってさ、こういうのに偏見ないの?」
プリプリと怒って部屋の方に行ってしまった三木さんを追うように俺たちも歩きながら、なぜだか珍しく言葉を選んで喋ってる様子の小野さん。
怒っていたはずなのに、三木さんもなぜか俺の返答にもの凄く興味があるというような表情をしている。俺の言葉が足りなかったのだろうか? あんまりフォローになってなかったのかな。
何て言えば本当に先輩達の関係を変だなんて思ってないと伝わるのかと考えて、俺は決心した。思い切って言っちゃえって。
「偏見なんかないっす。っつーか、俺ずっと、ずっと好きな人がいるんすけど、ほんとはその人……男、なんで」
「……まじかー!?」
小野さんが大きい声を出して俺を見た。三木さんも小野さんほどではなかったけれど『ええ!?』と驚きの声をあげていた。
「好きな人ってあれだよな? 高校の時からずっと好きで、大学まで追っかけてきたっていう」
「そうっす」
「え! ってことは、この大学の男ってこと?」
「っつーか、ここまで言ったんで思い切っちゃうすけど、俺の好きな人……竹下さんっす」
「ええー!?」
今度は2人共声を揃えて驚いている。そして、小野さんと三木さんはお互い顔を見合わせて、目で語り合っているようだ。俺としては、そういうのまじで羨ましい。
「ユキ。それ竹下に言えよ」
2人のアイコンタクトの結果出た結論が『告白しろ』だったことに驚く。そんなことできるわけがない。竹下さんはノーマルな人なんだから。
「言えるわけないっすよ! 引かれて終わりじゃないっすか」
「言ってみなきゃ分かんねーじゃん。現に俺らだってそうやって言わないまま数年片想いだったんだぜ?」
「でも……それは、小野さんと三木さんの話であって。竹下さんが性の対象として見てるのは女性だし、俺なんか……」
ぐだぐだと言い訳を並べているだけだと自分でも分かっている。だけど、言えないものは言えない。だって、竹下さんに嫌われたくない。
「あのな、ユキ」
三木さんが何かを言いかけたところで、俺の携帯が鳴り始めた。元々携帯を取りにここに来たのに、まだ手に取ってもいなかったことに今さら気が付く。
全員の目が集まったスマホの隠しようのない画面には『竹下紘基』の4文字がデカデカと表示されていた。
「なんつータイミングの良さだよ」
いいのかな、むしろ悪いんじゃないか?
竹下さんから電話がかかってくるなんて、何事だろう。最近は明らかに避けられることは無くなったけど、それでも前みたいに親しくしてくれることも無くなってた。だから、電話がかかってくるなんてことも本当に久しぶりで、出るのが怖い。でもせっかくかかってきた竹下さんからの電話を無視なんかしたくない。
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