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「雪田かー。なんか思い出してきた。なんか知んねーけど、あいつのことよく見かけたんだよな。イケメンだから記憶に残りやすかったのかなー? いやでも、それにしちゃ頻繁に出くわしてたような……あ。そういやさ、お前覚えてる? 3年の時の球技大会でさー」


 覚えている訳がない。自分が何の種目に出たかすら記憶にない。ていうか頭ゴチャゴチャで、今それどころじゃ無いんだけど。


「最終回の表で、同点、1アウト2、3塁の場面でさ、相手のバッターが左中間に良いライナー性の当たり打ったわけよ。もうダメだーってなったけど、センター守ってた竹下が打球捕ったじゃん。しかもタッチアップで走ってたランナーもバックホームでアウトにしちゃってさー。やっぱ顔が良い奴は何させても良いんだなーっつって小突き回したことあっただろ」

「あったっけ?」

「まじかよ。俺だったらずっと武勇伝として語るくらいかっこ良かったぜ? あー、まあいいやそれは。でさ、そん時の対戦相手がたぶん雪田のクラスだったんだと思うんだよ。ベンチで応援してたし。でも、竹下が決めた時さ、雪田が悔しそうな顔じゃなくて、すげー感動してるみたいな顔して竹下を見てたんだよなー。雪田だけほんと周りから浮いててさ、よく覚えてるわ」

「雪田は俺のこと、高校の時から知ってたと思う?」

「そりゃそうだろー。竹下は自覚してなかったのかもしんないけどさ、当時学内で竹下を知らない奴なんか少数派だろ。顔も良いし、頭も良いし、スポーツも出来るし、性格も良いしで有名人だったんだぜ? お前って」

「何だそれ。俺が性格良いとか、まじでありえないから」

「そういうこと言っちゃうのが、性格良いってことだろ」

「違うよ。ほんとに。俺は好きな子にだけ優しくして、分かりやすく贔屓するような奴だもん」


 雪田にもっと好感を持たれたい。俺の中で、雪田は特別なんだと雪田自身に自覚させたい。そういう自分本位な理由で、俺は雪田に優しく接していた。雪田にいい人だと思われたかったから。
 そのくせ、唯一好かれたいと思った子に自分の気持ち押し付けて、傷付けて、挙げ句の果てには避けることしか出来なくなるような奴の性格が良いわけない。


「人間なんか皆さ、そうなんじゃねーの? 好きな奴には良くして、そうじゃねー奴は無視か冷たくするもんじゃん。俺が竹下の性格が良いって言ったのはさ、それがなかったからだよ。誰と接しても全員平等。確かに女子には冷たかったけど、酷いことはしねーし、逆にそういうので好感度上がるっつーかさ。でも、今分かったわ。お前にとっては全員が『そうじゃねー奴』だっただけなんだな」

「ああ、うん。そうだね。否定はしない」

「おい、認めんのかよ。俺もそうじゃねー奴の内の一人なんだけど」

「いや、色々と妙に納得しちゃってさ。俺、好きな子以外はほんとどうでもいいと思ってるんだよ。高校までは俺にとって特別な人間がいなかったんだって、まじで思い知らされる。いつもその子のことばっか考えてるし。こんなに執着したこと、人にも物にも、一度も無いんだ」


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