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「あ、あれかな? 黒のセダンすか?」

「うん」


 助手席の窓から、雪田が中を覗き込んでくるのを見て、また自然と顔が笑ってしまう。内側からドアを開けて乗るように促すと、少し躊躇いがちにシートに座るのがなんか面白かった。


「じゅんぺー何か言ってた?」

「あ、いやなんか誤解したみたいで……」

「誤解?」

「俺が竹下さんと電話してるのが、すごい嬉しそうだったからって、あの昼間言ってた……好きな人から電話掛かって来たんだって思ったらしくて。で、頑張って来いっつって、ゴムまで……渡されて、来ました」

「まじで? ゴムとか、あいつバカじゃん」

「まじ勘弁して欲しいっす。次に霧島さんに会ったら、どうだったかとか絶対聞かれるっすよ」

「あーそれあるね。じゃあさ、まじよかったっすって言っとけば?」

「言えないっすよ! そんなこと! 竹下さんまでそうやってからかわないで下さいよ。俺がそういう経験ないのなんて分かってるでしょ。言ったって墓穴掘るだけっすよ」

「じゅんぺーなら根掘り葉掘り聞きそうだもんね。そっか。雪田は経験ないんだ」

「まー、正直に何もなかったって言ってコレは返すっすよ」


 否定するとこはそこじゃないでしょ。好きな女に会ってたんじゃないって言えばそれで済むのに。意外と要領悪いんだな、雪田って。それとも俺が、俺に呼ばれたって言わないように言ったからかな? うん、やっぱ、要領悪いんだ。
 次に雪田がじゅんぺーに会う時には、俺もそばにいてフォローしてあげようって思った。
 そういう面倒なの嫌いだったはずなのにな。


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