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「れおは、今日地元帰るって言ってたっけ? 遠いの?」
「そんなことないっすよ。遠くはないけど、頻繁に帰るのはちょっと面倒ってくらいの距離っすかね」
地元、竹下さんと一緒っす。なんて、口が裂けても言えないけれど。
「大学入ってからは、初めて帰る?」
「そうっすね。夏休みに帰らなかったから、余計に帰って来いってうるさくて。でも、俺も妹に会いたくて元々バイトの休みは貰ってたんす」
「れおって妹いるんだ。意外。お兄ちゃんって感じしないなー」
「お兄ちゃんになったの、最近なんで」
「え。何歳?」
「二歳っす。明後日で三歳になります」
「可愛い? 写真ある?」
「めちゃくちゃ可愛いっす! 見ます?」
「うん、見たい見たい」
携帯に保存している画像を次々と竹下さんに見せる。完全に兄バカ。でも年の離れた妹は、目に入れても痛くないってやつで。ぶっちゃけメロメロだ。
「可愛いねー。これとかすげー笑ってる。れおが撮ったの?」
「那央が撮って送ってくれるんすよ。ずっと一緒にいるから俺よりも那央に懐いてて、ちょっと悔しいんすけど」
「名前何ていうの?」
「碧央っす」
「あおちゃんかー、まじで可愛いね」
「竹下さんって子供好きなんすか?」
「ううん、全然。全く好きじゃない」
「え、でも」
「れおに似てるから可愛いって思うだけ。目元とかそっくりだよ」
何て言っていいか、分からない。子供は好きじゃないけど、俺に似てるから碧央が可愛い? 何それどういう意味? 面白いってこと?
「大きくなったらモテるんじゃない?」
「すでに保育所でモテモテらしいっす。男の子からお花貰ったりとかしてるって」
「妬ける?」
「許さんっす。うちの子は嫁にやらんっす!」
「完全に小舅じゃん。れおもそんなこと思うんだ」
ハハハ、と声を出して笑う竹下さんは超レア! 久しぶりの笑った顔! ちょっと泣きそうだし、俺。
「……あ。日の出、見えた」
「うわ……キレーっすねー……」
カシャ、とシャッターの電子音が鳴る。きっと竹下さんが初日の出を撮ったんだろう。思わず写真を撮りたくなる気持ちはすごく分かる。
「うん、……綺麗だ」
こんなに綺麗な朝日を、竹下さんと二人で見られた。去年だって本当に良い一年だったけれど、今年はもっと、もっと良い年になる気がする。
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