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急いで身支度をして、ホテルを出たのが6時20分。目的地までナビ上では17分。日の出は予報で6時49分らしい。道が混んでなきゃ余裕で間に合いそう。
「…………」
助手席でじゅんぺーが黙っている。めんどくさいから放っておいて、雪田に会えるの嬉しいなーとかそんなことを考える。たった一週間。なのにこの距離のせいなのか、好きすぎるせいなのか分からないけれど、すごく久しぶりな気がする。
「お前、運転大丈夫か?」
「うん、平気。ちょっと寝たし、シャワー浴びたし、酒は抜けてるよ。まあ検問があったら終わりだろうけどね」
「ねーだろ。元旦から」
「逆にあるんじゃない? 俺らみたいなの取り締まるために」
「もし罰金食らったら、あのバカに払わす」
相当ムカついてんな、これ。
小野さん三木さんと、一回生3人と、橋本の女とその友達数人で年越しをしたらしい。海で遊んだメンツと変わらないって話だからあの雪田狙いのうざい女もいたはず。まあそのへんはあとで雪田本人から聞き出すとして。
解散してからも小野さん三木さん、新見、雪田の4人で飲んでいたら、新見の発案で茨城に初日の出を見に行こうということになったらしい。俺ら2人にも会いたいしってことで。そこまではいい。じゅんぺーの怒りの原因はこのあと。
初日の出に間に合うようにするには、4時頃に出発しなきゃいけなくて、電車は無いし、タクシーだと金掛かり過ぎるしでどうしようかってことになった。そこで諦めればよかったんだけど、新見が閃いてしまった。
じゅんぺーの車使えばいいじゃん。って。
それで今、じゅんぺーに無断で、じゅんぺーの車を走らせて、こっちに向かってるらしい。ちなみに運転してるのは小野さん。
じゅんぺーは自宅生で、当然車は実家に停めてある。普通だったら車なんか勝手に借りられないけど、運良く、というか運悪く、新見がじゅんぺーの家族に気に入られてしまってる。新見の『車のキー貸して』の一言でホイホイと貸してしまうじゅんぺーの母親と姉。
さっき、二度と新見に車のキーを渡すな、と電話で母親に強く言ったが、いいじゃないの、と笑って流されたらしい。
で、超不機嫌継続中。
「つーかさ、お前の家族になんでそんな新見が気に入られてんの」
「知るかよ。母さんと姉ちゃんが尋常じゃないくらい可愛がっててさ。俺がいなくても俺ん家で平気でメシ食ったりしてるよ、あいつ。親父まで一緒になって可愛がってるしよー。あいつの茶碗とか箸まであんだよ。あとパジャマ。俺ん家の家系は遺伝子レベルでニーナを可愛いと思っちまうんじゃねーかと思うくらいだぜ」
つまりお前も可愛いと思ってんじゃねーか。と言うのはやめておく。じゅんぺーが新見を可愛がってんのは知ってるし。
「で? 会ったら殴んの?」
「さあな。なんせ遺伝子レベルだからな。あいつの顔見たらそんな気も失せるかもしんねー。代わりにお前殴っといて」
「やだよ。めんどくさい」
「くっそ、まじでムカついてんのに……」
ブツブツと色々言っているけれど、なんか結局は新見には怒れないということらしい。これはひょっとするとひょっとしちゃうのかもしれない。じゅんぺーは新見のことが好きなんだろう。
「お前から見てニーナってどうよ?」
「……うざい?」
「だよな。それが普通の反応だ」
え、いや。それが普通でいいのかよ。
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