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大晦日の晩は、教授を含む現場のみんなで年越しした。蕎麦食って、酒飲んで、つまみ食って、麻雀を教わって、既婚者の愚痴聞いて、子供の自慢話聞いて、泥酔したオッサン達の介抱して、気付いたら朝に近かった。
「どんだけ年取っても、やってること変わんねーな、おい」
「……疲れた」
フラフラになりながら自分達の部屋に戻って、ベッドに倒れるみたいにして寝た。最悪な年明け。服とか髪がタバコくせーとかそんなことどうでもいいって思うくらい、とにかく眠りたかった。……のに、うるせー音で鳴るじゅんぺーの携帯のせいで起きてしまった。体感的にはほんの一瞬。さっき寝たばっかりで若干イラッとした。
「んだよ、うるせーな……」
キレ気味のじゅんぺー。でも電話には出るらしい。
「こないだ俺からの電話ブチったくせによく掛けてこられたな、このバカ野郎が」
相手は新見か。なんとなく耳をそばだててしまう俺。
「は? バカか。いま俺らがどこいると思ってんだよ、ふざけんな。行かねーぞ」
何かを断っている様子のじゅんぺー。その言動に甘ったるい感じは無い。やっぱり俺の勘違いだったかな、と思っていたら今度は俺の携帯が鳴った。
液晶に浮かぶ『雪田』の文字。つい顔が緩む。
「もしもし、どうしたの? 電話なんて珍しいね」
「あ! 竹下さん、明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします!」
「ああ、明けましておめでとう。こちらこそ今年もよろしく。それ言うためにわざわざ?」
「いやっ、あの、ニーナが霧島さんに電話掛けてるので、竹下さんにも今ならって思って」
「うん? それで、何か用だった?」
「あ、そっか。えっと、今からみんなで初日の出見に行こうって話になって、良かったらお二人もと思って」
なるほど。それで『どこにいると思ってんだよ』か。チラ、と時計を確認すると時刻は午前6時の少し前。まじでさっき寝たばっかりの俺ら。つーか、日の出まであと何分だよ?
「……うん、ちょっと厳しいかな」
「そ、っすよね。俺、今日地元帰るんすけど、その前に竹下さんに会えたらなって思って……お疲れなの分かってるのに、すみませんっす……」
う……わー、俺なんかに会いたいって思ってくれてんなら今すぐにでも飛んでってあげたい。じゅんぺーの方はどうなってんのかなーと様子を見ると、なぜかじゅんぺーがワナワナと怒りに震えているような……なんで?
「てめーぜってぇ許さねぇからな! 今すぐ行くから殴られる覚悟して待ってろ! このバカが!」
「あー、うん。なんか行くことになったっぽい。また後でね」
じゅんぺーが携帯を枕に投げ付けて、それでも発散出来ないのかバタバタと悶えている。声を掛けようか迷っていると、ガバっと勢いよく起き上がってバッグを漁り始めた。
「風呂、5分で入って交代な。すぐ出発するぞ」
なんだろう。こんなに怒っているじゅんぺーは初めてだ。何がここまでこいつを怒らせたんだろう。新見って、なんかすげーな。
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