31-2




 じゅんぺーは言うだけ言うと寝てしまった。肩透かしを食らった感が否めないけれど、とにかく風呂に入って俺も寝ることにした。どうしたって朝は来て、また夜までこき使われるのは決まってるから。
 雪田を知る前の俺だったら、一晩寝て起きると大概のことはどうでもよくなってた。隣で眠る女の顔を見て、煩わしいと何回思っただろう。面倒くさくなって、逃げるみたいに部屋から出て行ったのなんて、数え切れない。
 そんな自分が、寝ても覚めても雪田のことばっかり頭の中を占めてて、会いたいとか会いたくないとかそんなことに悩んでるなんて。ほんとに、考えられなかったな。

 例えば、誰かを好きになるってことを知らないままの俺でいたら、きっと今もずっと楽だった。
 そりゃたまには虚しくなって、適当に遊んだりして、でもやっぱり面倒くさくて、一人でいる方がいいや、とか思ったりして。何かに思い悩むことも無くて、とりあえず大学行って、バイト行って、飲みに行って、あーなんかつまんねーなとか思いながら、毎日無難に過ごしてさ。……そういうのが、俺だった。
 でも不思議と、戻りたいとは思わないんだ。雪田を好きになる前の自由な俺より、雁字搦めになってる今の方が、たぶんいい。

 ベッドに寝て、目を閉じると思うんだ。雪田が夢に出て来ねーかな、って。それで、笑った顔を見たいな、ってさ。
 そんなことを想像しただけで、少し笑ってしまう。こういうのも幸せって言うんじゃないかな。だから、なかなか悪くない。……と、思う。


「あれ? お前いつ戻って来てたんだ?」


 朝起きたじゅんぺーの第一声がそれだった。昨夜あれだけ喋ったのに。


「……昨日酒飲んだの?」

「おー飲みまくったわ、一人で。お前はデート行ってるし? 暇だったからバカに電話しても『いいとこだから邪魔すんな』とか言われるし? 飲まずにいられるかよ、くそ」


 酔ったじゅんぺーは、普通だ。というかむしろ普段より良い奴になる。昨夜も飲んだ酒の缶とか瓶とか全部キッチリ片付けてから風呂に入ったんだろう。酔うとなぜか妙にしっかりしてくる変な奴だから。女もそれで結構コロッと落ちる。
 でも、本人には記憶が無いらしい。俺ら周りも言ってやらないし。だってなんとなく腹立つから。こっちはちょっと感動しちゃったりしてんのに。


「バカって?」

「ニーナ」

「……新見?」

「おー」

「電話したの? イヴの夜に?」

「おー」

「……ふーん」


 え、なにそれ。どういう感情? は? 前に言ってた『あのバカ』っていうのも新見のこと? 無いって。無い無い。つーか、無しだろ。前から妙に可愛がってんなとは思ってたけど、そういうことだったの?


「うわやべ。コウさっさと着替えろ、遅れるぞ」

「あ、うん」


 普通だ。だよな。無い無い。ありえない。新見のことをよく知ってる訳じゃないけど、あんなバカっぽい奴にじゅんぺーが……うん、無い。


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