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「なんでそんな顔してんだよ。フラれた?」


 夜中にホテルの部屋に戻ると、じゅんぺーが風呂に入ってた。俺も風呂入って寝ようと思ってたのに、計算が狂った感じ。でも風呂に入らずに寝る気にはなれなくて、なんとなく起きて待ってたらこの言い草だよ。そんな酷い顔してんのかな。俺は結構幸せな気分なんだけど。


「好きって言ってもいねーのに、フラれるかよ」

「は!? こんな絶好の日に告らねーとかお前なんなの、バカなの? つーかバカだろ!」

「あの子に好きだなんて言う気はそもそも無いから。言っても困らせるだけだし」


 雪田は優しい子だから。俺からの気持ちに悩んでしまうはず。自分に向けられる好意が、自分の望んでいるものと違うことに罪悪感すら抱いてしまうかも。俺に応えたいと思って無理までさせてしまうかもしれない。


「なんかユキみたいなこと言ってんな、お前」

「……ああ。そういえば、そうだね」


 でも雪田は俺と違って、そのうち成就させると思うんだ。だってあんなに良い子なんだし。
 生まれてきてくれてありがとうって、俺なんかと出会えたことに感謝するって言ってくれた。実の親にも思われてなさそうなことを、雪田は思ってくれる。口に出して伝えてくれる。すげー、優しい子。
 来年の誕生日も祝いたいって言ってくれたこと、めちゃくちゃ嬉しかった。嬉しかったけど、たぶんっつーか絶対、叶わないでしょ。来年のクリスマスは好きな人と過ごしたいって思うようになるだろうから。
 一年後なんてそんな先のこと、約束しちゃったら雪田が可哀想だ。俺はその気持ちだけで十分、幸せだから。


「俺が言っても説得力なんか全く無えって分かってんだけどさ、言うぞ?」

「なに」

「お前がどこの誰でどんな立場でどういう子を好きだかは知らねーよ。お前は言わないだろうし、俺も聞かない。ただな、自信持てよ。お前はいい男だよ。この俺が認めてる。それだけは忘れんな」


 思わず笑ってしまった。クソ真面目なじゅんぺーの顔が、本気で言ってるってことを表してて、それが余計におかしかった。……嬉しかった。


「普通は笑わねーんだよ、ここで」


 笑ってしまうのを堪えられないまま、俺は『ごめん』と口にした。


「そういう、顔と中身にギャップがあるとことかさ、俺は気に入ってるし。お前は自己評価が低いけど、俺ん中じゃ高評価だから。じゃなきゃ一緒にいないし、こんな話もしない。なんつーか……最初から諦めてる感じがさ、もったいねーと思うんだよ。ユキもそうだけど。好きな子の幸せを願うのも立派なもんだと思うけど、気持ち言う前からそれじゃ、逃げてんのとどう違うんだよ。お前自身が幸せにしてやるって思わねえで、何が好きだっつー話なんだよ。俺はお前はそれができる奴だと思ってるから、……だから、頑張ってみろよ」


 途中から自分でも何が言いたかったのか分からなくなっていそうな顔をしていたけれど、じゅんぺーの言いたいことは分かった。
 俺だって、そう思ってた。雪田の話を聞いていただけだった頃は、雪田の消極的な姿勢が理解できなかった。見ているだけで幸せなんだと言う雪田の『好き』という気持ちが、全く分からなかった。
 雪田のことが好きだと自覚してからしばらくは、そばにいるのが楽しくて、優しくしてあげると笑う雪田の顔が見たくて、俺を呼ぶ雪田が可愛くて、そういうのが全部、幸せだった。多少強引だろうがアプローチして、雪田にも俺を好きになって欲しいと思ってた。

 でも今なら分かるんだよ。分かってしまったんだ。逃げてるって言われようが、好きな気持ちを軽く見られようが、関係ない。俺は、雪田の幸せを願うことしかしちゃいけない。
 雪田を本当に幸せにしてあげられるのは、俺じゃないんだ。


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