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「絆創膏、いっぱいだね」


 スル、と撫でるように手に触れられた。一瞬で自分の体温が上昇したのが分かる。心臓が跳ねたみたいに大きく脈打って、呼吸が荒くなるのを気付かれないように息を止めた。


「これは?」

「……あ、それは火傷しちゃって」

「ごめんね」


 なんで竹下さんが謝るんすか。って、言おうとした。でも、止めた。
 何でだか分からないけど、竹下さんは少し笑った顔をしていたから。


「痛かったよね。でもさ、れおが怪我してんのに、俺は嬉しいって思っちゃうんだ」

「嬉しい?」

「れおが、俺の誕生日なんかのために、こんなになるまで頑張ってくれたんだって思ったら、嬉しいんだよ。……自業自得だけどさ、俺、誕生日を祝ってもらった覚えがあんまり無いんだよね。だから、今日はすげー舞い上がってるし、すげー幸せ」


 火傷を覆うように貼った絆創膏の上から、そっと優しく触れる指先を目で追う。竹下さんが今触れているのが自分の腕だってことが信じられないくらい、竹下さんの指がものすごく大切なものに触れるように繊細に動く。


「自分でも最悪だと思うけど……痕が残ればいい、って思う。そうしたら、れおは今日のこと忘れないでいてくれるでしょ」

「痕なんか残らなくても、忘れないっすよ」

「そうかな。……れおは、いつまで俺なんかとこうやって一緒にいてくれんだろ」


 無意識のうちに零れ落ちたみたいに響いた声色が切ない。どうしてそんな風に思うんだろう。俺は、いつまでだって一緒にいたいと思ってるのに。まるで、俺の方から離れていくみたいに。


「竹下さん」

「ん?」

「月並みな台詞ですけど。生まれて来てくれて、ありがとうございます」


 使い古されてきた言葉だけれど、これは俺の本心だ。


「俺は、竹下さんに出会えたことに感謝してます。こんな風に一緒に過ごせることが嬉しいです。だから、もし、竹下さんさえ良ければですけど、来年のお誕生日も俺に祝わせてください」


 俺の言葉に驚いたように、竹下さんの目が少し泳いで、そして笑った。全く嬉しそうじゃない笑顔。顔は笑っているけれど、笑ってない。全部諦めたみたいな、懐かしい竹下さんの顔。この表情をする竹下さんを、俺は好きになった。だけど、本当に嬉しそうに、優しく笑う竹下さんをもう知ってる。
 俺の言葉なんかでは、竹下さんを心から笑わせることは、できないんすか?


「れおは、まじで俺を喜ばせる天才だね」


 嘘だ。竹下さんは笑っていない。


「来年、かぁ。……遠いねー」


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