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「んーで、これ。絆創膏な。こっちが普通ので、こっちが指先用。包丁が新しくて切りやすいから、無駄な力は入れないように、ゆっくり切れよ。あとは、火傷したときにはこの貼り薬。これも指用と大判もあるから患部に合わせて使い分けてな。それから……」


 クリスマスイヴ前日。つまりは天皇誕生日で祝日である今日、約束していた通りの時間に、彫刻のように綺麗な顔をしたリサさんのご友人が、大量の食材や調理器具を抱えて家まで来てくれた。一人では持ち切れない物量だったから荷物持ちに来てもらったのだという人は、一見するに真っ当でなさそうな恐ろしい風貌で……俺としては目も合わせられないような感じなのだが、こんなパシリのような真似をさせてしまったことが申し訳ないので、努めてにこやかに接するように心掛けた。


「じゃ、頑張れよ」

「ありがとうございました! 頑張るっす!」


 玄関のドアが閉まると、フー、と長い息を吐いて身体の強張りを解いた。最後まで一言も言葉を発しなかったけれど、恐い風貌の人のプレッシャーが凄かった。……こわかった。
 わざわざガスコンロで強火や弱火、とろ火など、火加減の説明までしてくれた綺麗な人に感謝して、レシピを手に取る。まずは一読。
 こんなに丁寧に書いてあるレシピがあるだろうかってくらいに細かく書いてある。なんの知識もない俺だけど、このレシピさえあれば、いける気がする。もしも万が一失敗した時のために、クリスマスらしいチキンだけは予約済みだし。最悪、レトルトカレーと惣菜のハンバーグで代用して……何とか事なきを得たいところだ。

 だけど、きっと竹下さんなら……と、思う。たとえ失敗して、美味しいものが出来なかったとしても、竹下さんは笑って、美味しいと言って食べてくれるだろう。
 レトルトカレーと惣菜のハンバーグだったとしても、準備をしたことに対して、ありがとうと言ってくれると思う。そして、失敗したのでも良かったのに、と気遣ってくれる。そんな優しい竹下さんの笑顔が思い浮かぶ。
 そんなことを考えていたら、俄然やる気になった。喜んで欲しい。笑って欲しい。本当に美味しいと、そう思ってもらえるものを作りたい。

 竹下さんのお誕生日を俺が祝ってあげられる。そんなこと、高校生だった頃の俺には想像も出来なかった。
 なんて……なんて、幸せなんだろう。
 竹下さんが竹下さんであること。そんな竹下さんに出会えて、こんなにも好きになったこと。俺を見てくれて、俺に声をかけてくれて、俺に笑顔を向けてくれて。そして、手だけでも、触れ合えたこと。
 全部、幸せで。全部、感謝したい。


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