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じゅんぺーが合コンでよく利用する居酒屋は俺の家から近い。いつもは10分程歩いて行く道を、車で行くと5分もかからなかった。店からの順路が分かりやすいパーキングに車を停めて、エンジンを切る。
俺は今何をやってる? 雪田から連絡が来る保証はないのに、こんな所まで来て……何を考えてるんだ?
とにかく早く。早く、電話を掛けて来い。そう念じるように携帯を見た途端、ピリリリッとけたたましい音を立てた。
「もしもし、……竹下さん?」
「うん」
「もうそろそろ店から出るとこで、これからカラオケ行くって流れになってて」
「雪田は今どっから電話してんの?」
「トイレっすけど」
「じゃあ、一旦電話切って、戻って待ってて。雪田はカラオケ行く気ないんだよね?」
「はい、乗り気ではないっす」
「じゃあ、切ったらすぐに戻って」
電話を切る。目を閉じて雪田がいつもの座敷に戻る様を思い浮かべる。そして気付いた。俺は今、笑っている。雪田からの電話で。雪田が合コンよりも俺を選んだことで、俺は喜んでいる。
何でこうも雪田は俺をいい気分にさせるんだろう? 何で今日まで、雪田と関わりをあまり持ってなかったんだろう?
こんなにも、隣に置いておきたいと思わせられるのに。
「はい、雪田っす」
「もう座敷に戻った?」
「あ、はい」
「今、俺その店の近くのパーキングにいるんだけど、出て来れる?」
「え、まじ! 今すか?」
「うん。だから、抜けておいで。じゅんぺーには先輩から呼び出しくらったって言っとけばいいから。あ、でも俺って言ったらだめだよ?」
「分かりました! え、まじで今、来てくれてるんすか?」
「うん。店出たらまた電話して。待ってるから」
「はい! じゃあ、すぐに! 失礼します!」
ブチっと容赦無く切られた通話に、急いている雪田を感じられて逆に嬉しくなってしまう。なんだこれ。なんだこの感じ。
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