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『研修お疲れ様です。明日、何時になるか分かんないと思うんで、来れる時に俺ん家に来てください。待ってます。ゆっくり、安全運転で、帰って来てくださいね』

 と、雪田からメッセージが来たのは約束の日の前日の晩。つまりは茨城に着いて、一日こき使われた後の疲れ切った状態で。お疲れ様です、と言う雪田を想像したら、速攻帰って会いたくなった。なんて、女々しいことを考えながら、何と返そうか迷って、でもナチュラルなのが思い付かなくて、結局返信せずに携帯を伏せた。

 そのまま数十秒、固まってたと思う。
 こういうとこがダメなんだよな、って。格好つかなくても何でも、動かなきゃいけない。思ってることを伝えなきゃ、今までと何も変わらない。


「何そのモデルみてーなポーズ」

「は?」


 風呂上がりのじゅんぺーにそんなことを言われて、自分の姿を見てみたけれど、どこをどう見たら『モデルみてー』になるのか分からない。


「なに? 考え事?」

「あー……あのさ、何て返信していいか分かんない時ってどうしたらいい?」

「返さなきゃいいじゃん」

「でも何か返したい場合は?」

「内容による」


 割と前向きに相談に乗ってくれそうな様子のじゅんぺー。軽く内容を言うことにする。


「明日、俺の誕生日なんだけどさ」

「まじで! イヴじゃん。なんで去年言わねんだよ」

「別にどうでもよかったし。……で、明日の夜に人と会う約束してんのね」

「何だよ、まさかデートか?」

「まー、うん。俺はそのつもり」

「まーじで!? 何それ何それ、相手誰よ!? 俺まったく知らねーんだけど!」

「言ってないし……でさ、明日俺が何時にあっち帰れるか分かんねーから、外で待ち合わせとか出来ないって思ってだと思うんだけど、家に来てってメールくれたのね。それに何て返信したらいいかなってさ」


 雪田ん家に行くことが嫌なわけじゃない。会えるだけでももちろん嬉しいし、誕生日を雪田に祝ってもらえることも、そんな日に少しの時間だけでも雪田を独占できるのも、めちゃくちゃ嬉しい。
 でも雪田ん家で二人きり。なんか、また変なことをしでかしそうな自分が嫌だ。でも雪田の計画では、家で合流してすぐに出る気なのかもしれない。そうなったらそうなったで、ちょっと残念に思うだろう自分も嫌だ。結局どうしたいの、俺は。


「つーかさ、どういう関係? 誕生日に、それもクリスマスイヴに、家で二人きりで会うってさ……付き合ってんの?」

「違うよ。明日の約束も俺からごり押ししただけで、イヴとかそういうのは関係なく、俺の誕生日を祝おうとしてくれてんだと思うし。ほんと、すげーいい子だからさ」

「え、待て待て。コウは、その子のことどう思ってんの?」

「好きだよ」

「は? まじで言ってる?」

「こんな冗談言わないよ」

「一応、聞くけど。それって恋愛の好きだよな? まじでコウらしくねーんだけど。あんなに女嫌いでさ。いっつもヤるだけヤってポイって感じで、そんなお前が、女の子を好きになったって?」

「酷い奴だったっていうのは自覚してるよ。そんな俺があの子に相応しくないことも、あの子が俺を好きにならないってことも分かってる」

「おいおい、そこまでは言ってねーだろ」


 慌てた様子のじゅんぺー。まずいこと言ったって顔してる。


「ごめん。なんか俺、普通は言わないようなこと、じゅんぺーには平気で言っちゃうとこあるから……ほんと、あの子のことで結構参っててさ、弱音みたいの言い出したら止まんなくなりそう」

「俺はウェルカムだけど?」

「俺はノーセンキューだから。つーかまともな恋愛のアドバイスがお前に出来るとは思えない。俺がお前に聞きたいのはさ、『家に来て』とかって俺的には拷問級の無自覚な誘いに対する返信の言葉ね。『了解』とかさらっとしたのじゃなくて、楽しみにしてるってのは伝わるように。でも部屋に二人きりだとか意識させないような軽い感じのやつ」


 そう言い切ってから思った。
 俺、必死じゃん。だっせー、って。


「『俺から誘ったのに決めてもらっちゃってごめんね。ありがとう。こっち出る時にまた連絡するから。夜会えるの楽しみにして明日の研修頑張るね』」

「ちょ、待って待って。もう一回最初から」

「一個だけ言っていい?」

「言わなくていい」

「俺そういうコウも好きだわ」


 携帯の画面越しに見たじゅんぺーの表情は至って普通で、何の気負いもなく当たり前のことを口にしただけって顔をしてる。
 やっぱりじゅんぺーは、俺の予想なんか飛び越えて、俺の心を動かす言葉を吐く。俺をからかうようなことを言うんだろうと思ってたのに。


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