29-1




 チリ、と胸を灼いたのは激しい嫉妬。
 雪田の想いは変わらない。ずっといつまでも真っ直ぐに、同じ人間を想い続ける。だから俺の雪田への想いは、雪田には届かない。平行線のまま、いつまでも実ることはない。
 雪田は、いつまで俺のそばにいてくれるだろう。クリスマスイブを、俺の誕生日なんかために空けていてくれるのはいつまで? 竹下さん、と笑顔で呼んでくれるのは? 大学生のあいだ? それとも、雪田の恋が実るまで?


「なに難しい顔してんだよ、バカ。とりあえず飲めよ、な!」


 小野さんが俺のグラスにビールを注いでくれた。そのビールを一気に煽って、空になったグラスを無言で差し出す。俺が何を考えていたのか分かっているのだろう小野さんは、何も言わないでまた注いでくれる。
 いつもは三木さんにしか興味を示さないくせに。さっきまで二人でイチャついてたくせに。二人して、そんな気遣った顔しないで欲しい。
 何も進歩してない。せっかく雪田の隣にいるのに、楽しい話一つ思い浮かばない。笑った顔が見たいのに、困らせてしまってるのは俺で。優しくしてあげたいのに、独占欲で気が狂いそう。


「竹下さん……?」


 不安げな表情で、俺の目を覗き込む雪田。首を傾げているせいで、上目遣いみたいになってる。手を伸ばしそうになるのを必死に我慢してるなんて、考えもしないんだろうな。可愛くて仕方なくて、頬を撫でたいとか、抱き締めて髪に触れたいとか、いつも思ってんだよ?


「ん?」


 雪田が俺に話しかけてくれたっていうだけで、自然と顔が緩む。たぶん、雪田以外にはこんな風に笑ったり出来ない。
 さっきまで嫉妬で頭おかしくなってたのに、雪田の関心が今は俺だけに向いてると思ったら、もう何もかも全部どうだっていい。できるならずっと俺だけを見てて欲しいんだけどな。


「どうかしたっすか? そんな風に飲まれるなんて珍しいっすよ」

「うん、どうかしてる。ねえ、俺が酔ったら俺ん家まで送ってくれる?」

「もちろんっすよ。任せてください!」


 雪田といられる時間が少しでも続くなら、酔った振りでも何でもする。でもまた部屋に二人でなんかいたら、何をするか分からない。雪田と二人だけになりたい。雪田を独占していたい。でも、二人っきりになりたくない。じゃあどうしたいのって、まじで分からない。


「ユキってコウん家知ってんの? もしかして行ったことある?」

「え、あるっすけど」

「まーじで!? 俺も知んねーのに!」


 じゅんぺーが心底驚いた、という目を俺に向けてくる。面倒くさいから本音を言う。


「そんな顔で見られても雪田以外に教える気ねーよ。自分の部屋に他人を入れるとかありえないから」

「んだよ、それー。ユキだけ特別扱いかよー」

「いや、俺の場合は体調が悪かったから、竹下さんが気を遣って休ませて下さっただけで……」

「何言ってんの、そのあともうちに呼んだでしょ。雪田だからだよ」


 そう言うと雪田は俯いた。ねえ、今どんな顔してる? 雪田は俺の特別だって分かってなかったの? こんなに分かりやすい態度なのに? 顔を隠しても、真っ赤な耳が丸見えだよ? 嬉しくて照れてるんだって、思ってもいい?


- 113 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -