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「あー、つーかさ。モトは彼女できたっつーのに、こんな合コンばっかしてるサークルにいていいのか? なんも言われねーの?」


 チラリと竹下さんを一瞥した三木さんが、どうやら話題を逸らしてくれたらしい。俺としてはめちゃくちゃ有り難い。ただ、今一時的にこの場を乗り切っても、そのあと隣で静かに怒っているような様子の竹下さんに、どう謝っていいのか皆目見当もつかない。


「いや、まあそれなりに。でもその辺、信用あるんで、俺」

「へー? まあなんだかんだで大変そうだな。彼女持ちは」

「そんなこと言って、三木だっていんじゃん? 恋人。ま、俺もだけど」


 ニヤけた表情で『コ・イ・ビ・ト』と一音一音はっきりと発音したあとに、ハートマークまで付いていそうな小野さんの言葉に、三木さんの顔は一気に紅潮した。


「なっ、に、言って……!」

「まじっすかー! 俺全然気付かなかったんすけど。いつからですか? 慣れ初めは? どんな子ですか?」


 明らかに動揺している三木さんと、何やら愉快そうな小野さんに、霧島さんが畳み掛けるように質問する。ギッ、と小野さんを睨めつけた三木さんは『いらないことを言いやがって』と目で言っている。


「我が儘でめちゃくちゃ束縛してきて、自意識過剰で手の付けられないような奴だよ」

「え、何すかそれ。何でそんなのと……」

「ひっでー言い草。照れ屋で素直じゃなくてでもめちゃくちゃ可愛い恋人がいる俺って超幸せ者だなー」

「小野さん! あんた、まじで黙ってろ!」


 真っ赤っかになってる三木さん。そんな三木さんを笑って見ている小野さん。どう見たってこの二人が付き合ってんだろ。と思わざるをえない。えーっと、隠してるつもりなのかな。それとも俺が同性が好きな人間だから、そう見えてるだけ?
 そんなことを考えていると、そんな仲睦まじい二人のことにはまるで興味がないみたいに、モトが話を振ってきた。


「聞きたいんだけど。失恋コンパ行ってんのに失恋してねーってどういうことなんだ?」


 そこに話を戻しちゃうんだ、と狼狽えはしたけれど、俺は自分の思ってることをちゃんと言わなきゃって思った。竹下さんの前で。今。


「確かにあの時は、失恋したって思われても仕方ないくらい落ちてたから、失恋コンパなんてものを開かれてもおかしくはなかった。俺はそんなこと全く気付いてなかったけど」


 竹下さんが箸を置いたのが音で分かった。俺の話を、ちゃんと聞いてくれてる。


「失恋って簡単に言うけど、どうなったら失恋なのかな。好きな人に恋人ができたら? 好きな人に付き合えないって断られたら? 俺はそうじゃないと思うんだ。俺が、好きな人を好きじゃなくなった時が、俺の失恋だよ。だから、俺は失恋してない」

「それって、つまり、振られたけど諦めてないから失恋してねーってこと?」

「好きだって伝える勇気もないから、振られてもないよ。だけど、そうだよ。俺は好きだって気持ちをどうしたって無くせない。だから失恋はしない」


 誰かを好きになることがない竹下さんを、ただ眺めているだけの一方的で、でも幸せな恋は終わった。
 だけど、好きだと伝えない限り、俺が竹下さんを想っている限り、俺の恋は終わらない。いつまでも、ずっと終わらないんだ。


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