28-3




「やっぱモトとモトの彼女を出場させなくて正解だったな!」


 ニーナのその一言で俺の表情は引き攣った。そんなことが可能なら、最初から誰かが女装しなくちゃいけないなんてことにならなかったし、俺だって絶対やらなかったのに! 確かに竹下さんと仲直りできるきっかけにはなったけれど、それでも人前で女装なんてとんでもない恥をかかなくても……いや、無理だったかな。あの時はああでなきゃ、きっともう話すこともできなくなってたと思う。でもだからって納得はしない。


「つーかモトって彼女いたのな。いつから?」


 小野さんがそんなに興味がある訳でも無さそうな感じで訊ねる。モトも特に照れるとかそういう素振りも見せず淡々と応える。


「夏に海行ったじゃないすか。それからです」

「へー……え、当日?」

「いや、こっち戻ってから一回メシ行って、そん時っすね」

「ふーん、ならいいけど」


 何が良くて何が悪いのか俺には全く分からなかったけれど、隣で竹下さんが小さく息を吐くように笑ったから、きっと竹下さんには分かったんだなーとかそんなことを考えながら、それより竹下さんの笑顔を見損ねたことを悔しく思っている自分はほんとに性懲りもない奴で、自分で自分に呆れる。


「つーかさー、こないだユキの失恋コンパやったらしいじゃん。どうだったん?」


 ニーナにそう言われて、何のことかと考える。でも思い当たる節がない。


「ユキちゃんにお持ち帰りされたーい、とか言ってる女子と、ユキにフラれた女いただくぞー、とか言ってる男いっぱいいたわ。うちのクラス」

「うちもいた」


 あ、あれか。俺を励ますために企画したとか言いながら、実は女性陣が目的だったのかよ。友達甲斐のない奴らだな。


「……雪田、失恋したの?」


 竹下さんのその言葉にギクリとする。相手は貴方です、だなんて口が裂けても言えないけれど。


「してないっすよ」

「じゃあなに、失恋コンパって。それ行ったの?」

「失恋コンパだなんて知らずに行ったっすけど、まじで俺はそんな気なかったすからね?」

「ふーん……」


 何となく不機嫌そうな竹下さん。それを知ってか知らずか、霧島さんがさらに俺に質問をしてくる。


「ユキの女装、ユキの好きな子は見てたのか?」


 見てたもなにも。隣にいらっしゃいました。……とは言えない。


「そっすね」

「何か言われた?」


 途端にボッと上がる体温。これは間違いなく顔が赤くなってる。やばい。隣に竹下さんがいるのに。


「なに。何て言われたの?」


 不愉快そうな表情をしながら聞いてくる竹下さん。竹下さんが不機嫌になってる理由が分からなくて焦る。でもその質問には答えられない。


「言えないっす」

「何それ」

「すいませんっす」

「……あ、そ」


 うわ、どうしよう。完全に怒らせた。だってまじで言えないし。そんなの言ったら、竹下さん自身が言ったことだってすぐに分かってしまう。


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