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「おいおい、主役が二人して微妙な顔してんじゃねーよ。今日はお前らカップルのお祝いなんだからな!」


 霧島さんがビールの入ったジョッキを右手に放った言葉が、さらに俺の表情を微妙なものにする。『お前らカップル』とか、変な表現は止めて欲しい。正直言って、気まずい。
 サークルのメンバー7人で揃って飲むのは久しぶりのことだ。しかも女性抜きの正真正銘7人での飲みはおそらく初めて。今日そんなことになった理由は、学祭でのコンテストで俺と竹下さんがベストカップルに選ばれたからだ。まじで、心の底から、意味が分からない。
 乾杯、と高らかに言われても、俺のジョッキは明らかに乗り気でない動きしかせず、それは竹下さんも同じで。だからこそ余計に、なんてことしてくれたんだと投票をした人達に憤りしか感じない。


「にしても、あんときのユキはまじで女になってたよなー! メスの顔だよ、メスの顔!」

「そうそう、他のガチでカップルで参加した奴らよりカップルっぽかったしな!」


 余計なことを言うニーナとモトを睨み付ける。仕方ないだろ。あの時の竹下さんは本当にかっこよかったんだから。プロのメイクさんに手がけられた竹下さんは、いつもかっこいいのに、それ以上にかっこよくて、まじでかっこよすぎて、しかも甘かった。


「れお。あともう一つだけ、言っとくことがあるんだ」


 出番が近付いて、ステージ裏に行かなきゃならない頃合いになった時のことだ。


「なんっすか?」

「その格好、可愛いよ。そこらの女より、よっぽど可愛い」


 俺は言葉通り、言葉を失った。目を見開いて、今言われた言葉が本当に竹下さんから発せられたのか確かめるように、竹下さんの顔を見つめた。竹下さんは、そんな俺の反応に満足したように柔らかく笑って、また言葉を紡ぐ。


「でも俺は、いつもの格好のれおの方が可愛いって思うし、好きだよ」


 ガーン、と鈍器で頭を殴られたんじゃないかってくらいの衝撃だった。ぐらりと傾く平衡感覚。一気に上昇する体温。息も出来なくて苦しい。心臓が痛い。たった少しの言葉で、俺の身体は統率を失って壊れた。


「顔、真っ赤だ」


 言われなくても分かってる。恥ずかしくて両手で顔を覆った。控えめだけど声を出して笑う竹下さんの顔を見たいのに、それを見たらもう生涯、平常心なんてものとは無縁になりそうで、見ないように努めた。


「れーお?」


 優しく俺を呼ぶ竹下さん。この人は俺に何回好きだと思わせる気だろう。どれだけ惚れ直させる気なんだろう。無限に膨らむ気持ちが怖い。


「ねえ、知ってた? 出場するカップルは、手を繋がなきゃいけないってこと」

「え!」

「決まりだから、そうしなきゃいけないからとか、そういうの抜きでさ。ちゃんと答えて」

「はい」

「俺と、手を繋ぐのは、嫌?」


 差し出された手。竹下さんの綺麗な手。俺より少し大きくて、少し冷たい、その手にまた触れられるとは思わなかった。


「嫌なら、握り返したりしないっす」


 竹下さんの手を握る。やっぱり少し冷たいこの温度こそが、竹下さんらしい。俺の体温で、この人の心まで、温められればいいのに。


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