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 竹下さんに嫌われた訳じゃなかった。それが分かっただけで、俺はどうしようもなく嬉しくて、幸せで、泣きそうになった。
 自分でも呆れるくらい、竹下さんが好きで。自分を好きになってもらいたいとか、竹下さんの隣にいたいとか、不相応なことを望んでしまうのが嫌になってしまうけれど、それでもやっぱり止められない。
 俺を幸せな気持ちにしてくれるのは、竹下さんしかいないんだ。


「あともう一つ、謝らなくちゃいけないことがあるんだ」

「え、なんっすか?」


 申し訳なさそうな表情の竹下さんを見ていると、不安になる。何を言われるか、怖くて仕方がない。


「俺の誕生日のことなんだけど」

「一緒に、過ごせない、っすか……?」


 竹下さんの二十歳のお誕生日。避けられていて、無理なのかもしれないって大概諦めてたけど……はっきりと言われると、つらい。楽しみにしていただけに、余計に。
 竹下さんのお誕生日で、しかもクリスマスイヴで。その日を一緒に過ごせたなら、俺は世界一の幸せ者になれるだろうって、いや約束をしてくれた時点で世界一の幸せ者になってたけど、上がってた分……落差が大きすぎる。


「あ、いやっ、えっと……夜、数時間だけならなんとかする。だからそんな顔しないで」


 明らかに慌てている竹下さん。俺がつらそうにしたからすか? そんな顔しないでって、俺のセリフっすよ。


「でも、無理なら、俺……」

「大丈夫だから。そもそも俺が言い出したことなのに、違う予定入れちゃってごめん」

「……ち、がう予定って……」


 他の誰かと過ごすんすか? 誰と? もしかして、好きな人と? 竹下さんのお誕生日を、俺じゃない誰かと一緒に過ごすのなんて嫌だ。だけど、それを邪魔する権利は俺にはない。だから、こんなこと言うべきじゃないのに……。


「誰か、他の人と……?」

「違うよ、ただの研修だって。教授の仕事の雑用に行くんだ。じゅんぺーと。だから、その日の作業が終わったらこっちに戻ってくるから。遅くなるかもしれないけど、待っててくれる?」

「研修って……こっちに戻ってくるって、どこに行くんすか?」

「茨城だって」

「遠いじゃないすか。そんな、こっちに戻って来てもまた翌日茨城にいなきゃなんすよね? 電車とかあるんすか?」

「大丈夫、自分の車で移動するよ」

「え、でも真冬だし、雪とか危ないし。疲れてるのに長距離運転なんかして事故にでも遭ったら……」

「ねえ、れお?」

「はい?」


 少し屈んで覗き込むように、目線を合わせる竹下さん。距離近いっす!


「俺の誕生日、一緒に過ごしたいから戻ってきてって思ってくれないの? 本当は、戻ってくんなって思ってる?」

「そんなわけっ、一緒に過ごしたいっす! でも、無理して欲しくないし、もし事故に遭ったらって思うと俺……」

「うん、じゃあ安全運転で戻ってくる。俺も、誕生日にれおと過ごしたいから」


 ふわっと柔らかく微笑む竹下さんを見ていると、何故だか急に『好きです』と、無性に気持ちを伝えたくて仕方がなくなった。
 こんな幸せな時間はそれを告げた瞬間に終わるのに。俺に笑いかけてくれる竹下さんは、それすらも受け止めてくれそうな気がして……言いたくて、知って欲しくて、でも失うのが怖くて。
 結局俺は、黙って頷くことしかしなかった。


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