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 飲み会では、妙に絡まれた。そもそもこの飲み会自体、最近俺の元気がないということで企画してくれたものらしい。言ってみれば俺が主賓なわけで。やたらと飲ませたがる奴らと、元気がない理由をどうしても失恋したことにしたいらしい女性陣。みんなはきっと励まそうとしてくれてるんだと思う。本当はそっとしておいてもらえたら、嬉しいんだけど。気持ちが有難いのは確かだ。
 失恋どうこうの話をずっと曖昧に流している内に、それぞれ飲んで出来上がって、俺への関心が薄まったらしい。
 静かに飲めるようになった頃、一人の女性が俺の隣に座った。講義の席が近いことが多くて、比較的話す機会のある子だった。


「ユキちゃんさ、好きな人いるんでしょ?」


 別に隠すことでもない。それは知っている奴は知っている。公然の秘密みたいなものになってしまっているから。主に、霧島さんのせいで。


「いるよ」

「いつから好きなの?」

「自覚したのは、高2の時かな」

「それが初恋?」

「そうだね。そうなんだと思う」


 子供の頃に近所のお姉さんに憧れてた、とか。小学生の頃に同じクラスの女の子を可愛いと思ってた、とか。そういうものが恋だったとは思えないほど、竹下さんへの気持ちは大きくて、重たかった。


「その人しかいない、とか思ってる?」

「……そうかもしれない。他の人を好きになるなんて、考えたこともない」

「そんなの、ただの刷り込みだよ。その人以上の人なんて、いっぱいいる。ユキちゃんは、見ようとしてないだけだよ」


 竹下さん以上の人? それはどういう意味で言ってる? 俺が恋愛対象として見る人としては、確かにそうかもしれない。竹下さんは俺と同じ男性だ。そもそも好きになっちゃいけない人だ。
 でも、でもさ、竹下さん以上の人なんて本当にいるのか? あんなに綺麗で、温かくて、どこか脆くて、愛おしくて、全部が好きで、好きで仕方ないと思える人が、この世界のどこにいるって言うんだ?


「他の人にも目を向けるべきだよ。酔った勢いとかででも誰かとシちゃったらさ、考え方変わるんじゃない? ……例えばあたしとか。ユキちゃんなら大歓迎だよ」

「うーん……身体から始まる関係っていうのを否定する気は無いよ? それが快感とか金銭を得るための行為だとしか考えてない人のことも、間違ってるとは思ってない」


 思い浮かぶのは、竹下さんのこと。色んな女性と関係を持っていた頃の竹下さん。そのことを思うと、心が軋む。でも竹下さんが当時いつも見せていた柔らかい笑顔が、俺はやっぱり愛しかった。


「それでも俺は、愛情から生まれる行為だって思いたいんだ。だからそんな風に自分を安売りするようなこと言ったらさ、勿体無いよ。もっと大事にしなきゃダメだよ」


 こういうこと言うと、ほんとに男かよって言われるんだけど。

 例えば俺がこのまま竹下さんを忘れられずに一人でいたとして。誰ともそういう行為だってせずに生きたとする。きっと俺はそれを後悔することはない。一人の人を一生を賭けて愛したと、誇りに思うだろう。
 でも願わくば、恋愛感情ではない、ただの尊敬の感情になってほしいと思う。独占欲なんて抱かずに、竹下さんが女性と結ばれることを心から祝福できるような純粋な想いに昇華してくれないかと、思わずにはいられない。


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