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「一年近くも、どうやって我慢したんですか?」

「我慢? なに? 性欲の話?」

「性欲の話です」

「気合い?」


 参考にならない。置かれている状況が似ていても、俺と小野さんの性格が似ていなさすぎる。


「お前が悩んでんのって、そういうことな訳?」

「違いますよ。いや、違いませんけど。なんと言うか……俺がそういう、性欲込みで雪田に触れたいって思うのは、分かってくれます?」

「おう、分かる分かる」

「一ヶ月くらい前に、俺の部屋で雪田とDVD見てたんですけど」

「二人で?」

「二人でです。その時に、なんと言うか、勢いと言うか、調子に乗って? キスしてもいいかって聞いたんです。俺」

「おお! それでそれで?」

「雪田が……俺ならいいって言うんです」

「おお! どうだった!?」

「え。してませんよ」

「なんでだよ!」


 なぜかキレ気味でテーブルを軽く叩きながら聞いてくる小野さん。なんでって言われても、できるわけ無いだろ。逆に小野さんならできるのかよ。


「雪田は拒絶とか否定とかあんまりしない子なんです。だから本当にされてもいいと思って言った訳じゃないと思います」

「いやいやいや、それくらいはちゃんと言うだろ。きっぱりと」

「雪田は三木さんと違って、言いたいことをはっきり言えるタイプじゃないですから」

「馬鹿野郎、三木こそ言わないっての」

「言うでしょ。じゃあまだ付き合ってなかった時に小野さんが三木さんにキスしていいかって聞いたとして、三木さんなら何て答えると思います?」

「え、待って待って。本当に嫌で拒否るパターン? それともしていいパターン?」

「していいパターンです」

「三木なら……『は? 何をバカなこと言ってんですか? 鬱陶しいんで口閉じてて下さい。ついでに息も止めてて下さい』とか?」

「……俺、していいパターンって言いましたよね?」

「だから、していいパターンをシミュレーションしただろ」

「えーっと、じゃあ拒否するパターンだとどうなるんですか?」

「そうだなー、『小野さん、まじで消えて下さい。っつーか、俺もう帰りますね』とか」

「……俺にはどう違うのか分からないんですけど」

「だから、三木こそ言いたいことを言えねぇ奴だって言ってんだろ。ツンデレなの。超ツンデレ。そこが可愛いの」

「聞いてないです、そんなこと」


 もう分かった。小野さんに相談したって絶対に意味ない。


「俺は三木の顔見りゃ、ツンなのかまじなのか分かるんだよな。だからさ、お前も考えてみろよ。ユキはそん時どんな顔してた? まじで嫌そうな顔だったのか?」


 そんなことを言われても……俺には困ってるようにしか見えなかった。俯きがちで、言いにくそうにしてた。拒絶できなくて、我慢するしかないって覚悟したみたいに目を瞑ったようにしか、見えなかったんだ。


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