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 学祭を翌日に控えた学内は、どこからどう見たって浮かれている。必死で準備をしている学生は、その苦労が大きければ大きいほど、達成感を得られるんだろう。そういうのはよく分からない。苦楽を共にするとか、仲間と一緒にやり遂げるとか、そういう『青春』みたいな言葉で形容される何かを、魅力的に感じたことはないし、理解したいとも思わない。
 明後日のコンテスト、どんな顔をして雪田に会えばいいんだろう。俺自身が雪田と今後どうしていきたいかも分からないのに。大体、俺がどうしたいかだけで事が済むほど、人間関係は簡単なものじゃない。そんな事を考えていると憂鬱になる。本当に、自分の小ささに嫌になる。

 駅に向かって歩いていると、携帯が鳴った。相手は、小野さんだった。


「……はい」

「おう。今から時間あるか?」

「まあ、空いてますけど。どうしたんですか、急に」

「別に。今どこにいるんだ?」

「大学出て、駅の方にちょっと行ったとこです」

「じゃあ駅前のサイゼで待ってる」


 一方的に電話を切られた。また三木さんとの惚気話かな、今はそれを聞きたい気分ではないんだけど。もしかしたら小野さんだけじゃないかもしれないな。それだったら惚気話の方がマシかな。ていうか、時間空いてるなんて言わなきゃよかったな。とか、色々と失礼なことを考えながら歩いた。
 指定された店に入って、小野さんを見つける。一人らしい。少しだけ安堵した。


「呼び付けて悪いな」

「いえ。院試、どうだったんですか?」

「受かったよ。え、っつーか俺ら二ヶ月近くも会ってないっけか?」

「会ってませんし、連絡も取ってません。それで、今日はどうかしましたか?」

「ああ……三木がさ、ユキがずっと元気ないみたいだって言うんだよな。竹下といるとこも全然見ないって言うし。んで、俺になら、竹下も話せることがあるんじゃないかって言われてさ」

「三木さんにそう言われたってことは言うなとも言われませんでしたか?」

「言われたけど。俺が自発的にこんな行動すると思われねーことは分かってるし、そこ隠したら逆に不自然だろ」


 まあ、確かに。卒研で忙しいこの時期に、少しでも空けば三木さんに会いたいであろう貴重な時間を割いて、三木さんに言われたからとはいえ俺を気遣ってくれたことには感謝しなくちゃいけないな。


「小野さんが、三木さんのことを好きだと自覚したのっていつですか?」

「えーっと、そうだな……最初から好きは好きだったからなー……性欲込みの話?」

「じゃあ、それで」

「性欲込みでってなると……去年の秋くらいか? あーでも、すげー独占欲持つようになったのは、お前らがサークル入ってきた時だし、三木がすげー特別だと思ったのは一昨年の秋だし、どの時点で好きだったかっつー話になると一昨年の秋かもしんない」

「秋に何かあるんですか?」

「金木犀が咲くから」

「は?」

「三木が好きなんだ、金木犀」

「そう、なんですか」


 小野さんが見たこともないような顔をしている。小野さんの対極にあるような『誠実』という表現が似合う、そんな表情。
 でも次の瞬間には、いつもの小野さんに戻っていた。


「金木犀の花言葉って知ってるか?」

「知りません」

「金木犀が俺にとっての三木だったみたいに、お前にとってのユキかもしんねーな」

「……クサい台詞ですね」


 口ではそんなことを言いながらも、金木犀の花言葉を調べてみたい気持ちにさせられた。目の前で調べるのは癪だから、帰ってからも覚えてたらにするけど。


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