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雪田から距離を置こうとすればするほど、雪田の存在が俺の中で大きくなっていくようだった。いつもいつも雪田の姿を探して、そして眺めた。
俺が取ってる訳でもないのに、雪田が取っている講義の講義室に行くようにまでなった。
きっかけは何だったか。ああ、そうだ。休講の掲示の中に、教育心理学の文字を見たことだ。それを見て、雪田が受講しているだろうと思った。
講義室は学内で一番大きなものだったから、そこに自分が紛れ込んだとしても分からないと思った。だから、その翌週、講義が始まった数分後に一番後ろのドアからそっと入った。
教授がチラッと俺の姿を確認しただけで、何か言われることはない。ドアに近い席に座って、雪田を探す。雪田の真面目な性格的に前の方だろうか。しかし、前の方にはいない。
あそこだ、と見つけた位置は、中ほどの端の方の席。両側を友人に挟まれて座っていた。話し掛けられて、楽しそうに笑って、小声で何かを喋ってる。真面目な生徒というよりは、ごく普通の大学生らしい生徒。なんか意外だと思った。
後ろに座っている女に肩を叩かれて振り返る。小さなメモみたいな紙を渡されて、それを広げて読んでから、何か書き込んでいる。また元通りに折って、女に手渡す。
その一連の動作を目にした時、自分の衝動を抑えるのが大変だった。立ち上がって、雪田のところまで行って、そのメモを奪い取って捨ててやりたいと思った。何て書いてあったの。何て書いて返したの。その女は雪田にとっての何なの。
自然と手で顔を覆ってた。酷い顔をしているという自覚があった。嫉妬に塗れた醜い顔。万が一にでも雪田に見られたくない。
耐えられなくなって講義室から出た。それでも俺は懲りずにその翌週もそのまた翌週も講義室に入って雪田を見ていた。
俺の大好きなヘニャっとした笑顔を雪田が浮かべないことだけが、唯一の救いだった。
俺に対しての笑顔じゃないなら、笑っていない方がいい。俺へのものじゃないなら、どんな言葉も吐かないで欲しい。そんな醜い嫉妬なんて関係なしに、雪田の楽しそうな顔も、嬉しそうな声も、真っ直ぐな視線も、全部俺以外の誰かに向けられてる。
好きな子の幸せを願う。それがこんなにも難しいと思わなかった。
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