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その次の週の日曜。俺は霧島さんに呼び出されて、とある女性ものの洋服店にいた。
目の前には短髪黒髪で、形の整った髭を生やしたお兄さん……もといお姉さん、なのか?
「あら、緊張してる? 大丈夫よー、とって食いやしないから。僕は食われる方」
うふふっ、と可愛らしく笑う仕草と、外見的特徴が不釣り合い過ぎて、なんだかどう反応していいか分からない。そして一人称は『僕』なんだな。
「つーかリサさん、ちょっと見ない内に太ったんじゃね?」
「うっそやだ! そういうこと言わないでよー。いくら淳平くんでも怒るわよ」
「怒ったリサさんてどんなの? 見てみたいな」
「もうっ。年上の女からかって楽しい?」
「楽しいよ? リサさんとは喋ってるだけでほんとに楽しい」
うわー。見てるこっちが恥ずかしい! リサさんも照れちゃって反応が乙女チックだし。霧島さんってほんとに生来の女好きっていうか、もはや才能?
「さて、と。じゃあ早速、ユキちゃんのメイク始めちゃいましょっ」
「え! メイクっすか?」
「そうよ? メイクして、ウィッグも付けて、衣装選びはそれからよ。あ、そうだわ。彼氏役の子は、どんな子なのかしら?」
「こんなの」
霧島さんが携帯の画面をリサさんに向ける。おそらく竹下さんの写真が映されているんだろう。
「やだー! 超かっこいいじゃない! いいわー! でも全然好みでは無いわね。きっと顔だけよ、この手のタイプは」
いきなり毒舌!?
「うん、でもそうね。イメージが湧いてきたわ。任せて、うんと可愛くしてあげるからっ」
「よろしく、お願いします、っす」
まず最初に黒目が大きくなるコンタクトレンズを入れられた。こんなところで初コンタクト。それだけで顔の印象がかなり違うらしい。それから色々な液体を顔に叩き込まれ、塗りたくられ、一時間近く経過して、ようやく終わった。
鏡に映った自分は、自分じゃなかった。
「おー! いいじゃん! やっぱすげーよ、リサさん。完璧女の子になってる」
「プロよ、プロ。当然じゃない」
あとは服だなー、とか何とか言いながら、俺がメイクをされている内に選んでいたらしい洋服をいくつか見せられた。
「とりあえず脱いじゃいなさい。パンイチよ。男しかいないんだから恥ずかしくないでしょ」
こういう時だけ自分を男にカウントするんだ! なんて都合のいい性別。
しかし言われた通りにするしかない空気が蔓延しているため、俺は何も言わずに服を脱いだ。
「やだー。結構いい身体してんのね。あれじゃ腕は出せても肩は無理ね。脚も腿の筋肉が女じゃないわー」
女性らしい身体つきになりたいなんて生まれてこのかた一度だって思ったこともないのに、なんとなく貶されたようで、悔しいような、この微妙な気持ちはなんだろう。
結局は、霧島さんの意見は大して通らず、リサさんチョイスの服を着た。鏡に映る自分自身を見ても、それを自分だと思うのが難しいほど、俺の姿は変貌していた。
「悪い、ユキ。女装したらコウでも笑っちまうって言ったの訂正するわ。これ全然笑えねー。ガチだ。ユキって知らなきゃ口説いてる」
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