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「あ、やっと出た。いま仕事中? 電話しても平気?」


 仕事中ってことは、社会人? アパレル関係の人かな?


「リサさんにお願いあんだー。10月31日さ、俺のために空けてくんない? んで、男を一人、女にして欲しい。……ああ、俺じゃねーよ。後輩。綺麗な顔してるよ? ……身長?」


 チラッと俺の方を見た霧島さんと目が合う。


「あ、177っす」

「177センチだって。全然華奢じゃない。別にガッチリしてるって訳でもねーけど。……うん。いや、そうじゃないよ。学祭の企画。……だーめ。俺の可愛い後輩に手出さないであげて」


 何の話だろう。ちょっと恐い。


「ああ、うん。いいよ。デートね。タダでやってくれんでしょ? そんくらいさせてよ。……ねぇそれ、まじで言ってる? ……まあいいよ? リサさんが俺をやる気にさせられたら、抱いてあげる」


 声が色っぽい! いつもの霧島さんと全然違う! 霧島さんって女性口説く時こんななのか! うわ、こっちが照れる!


「じゃあまた詳しいことは連絡するから。……うん、一回お店に連れてく。はーい、またね」


 通話を切って携帯をポケットしまった霧島さんは、少し得意げな表情で俺と目を合わせた。


「プロにメイク頼んだから。絶対可愛くなる! 大船に乗ったつもりで、安心しとけ!」

「プロって……でも今タダでって」

「その代わりに学祭一緒に回れってさ。イケメンと学祭デートよ! とかってはしゃいでた」

「だ……抱いてあげる、とか」

「ああ、冗談冗談。さすがの俺でも男は抱けねえよ」

「男!?」

「なんつーの、心は女みたいな。だからってベッドの上でまで女の子扱いはできねえけどな」


 何となくかっこいいと思ってしまった霧島さんの発言。『ベッドの上で』なんて日常会話に出てくるワードなんだろうか。
 竹下さんを基準に考えてしまう悪い癖がある俺でも、霧島さんはかっこいいと思う。身長は竹下さんの方が高いし、足も当然竹下さんの方が長い。顔だって竹下さんの方が小さい。そりゃ顔の造りだって竹下さんの方が綺麗だ。どうしたって竹下さんを贔屓目で見てしまう俺から見ても、霧島さんは竹下さんの隣にいて見劣りしない。
 だから、少し羨ましい。竹下さんと自然に一緒にいられる霧島さんが。


「コウには俺から上手く言っとくから。お前もコウに何か言われても、俺に無理矢理させられたんだって言っとけ」


 霧島さんといると、俺もこういう人になりたかったなって思わさせられる。明るくて、いつも場の中心にいて、自分に自信があって。


「はい……ありがとう、ございます」


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