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「ユキ……」

「あっ、すいませんっす。何でこんな……ハハ、だめっすね。俺が悪いのに」


 拭っても拭っても溢れてくる。奥の方の席で良かった。他の学生に見られないで済む。こんなところで泣くなんて。霧島さんにも迷惑だ。


「コウに、何か伝えとこうか?」


 霧島さんの言葉に甘えたくなる。でも、竹下さんに伝えるべき言葉が見つからない。謝ってどうなる? 俺が竹下さんを好きだって気持ちは変わらないのに。
 このまま、距離を置いた方がいいのかもしれない。もっと嫌われるくらいなら。


「……いいっす。余計にウザがられるだけっすから」

「お前さー、何でそんなネガティブなんだよ」

「何でって言われても」


 男のくせに男の人を好きになった。それでも前向きにアプローチ出来る人がいたら見てみたい。
 もしかしたら、俺が竹下さんを好きだって、竹下さんは気付いたのかもしれない。だから避けられてるのかも。それが竹下さんの答えなのかな。


「話するチャンス、作ってやろーか?」

「え?」

「学祭で、コンテストがあるの知ってるか? ミスコンみたいなやつ」

「ああ、男性と女性とカップル部門があるっていう」

「それそれ。エントリー数を確保するためにサークルと部活からもそれぞれ出場するように決まってんだ。で、ついうっかり、くじ引きでカップル部門に決まっちまってさ」

「うちのサークルが、っすか?」


 確か竹下さんは一回生が出るって言ってた。ってことは俺とモトとニーナの内の二人でカップルを演じろってこと? ついうっかりで済まないだろ。


「最初はお前とモトに出させりゃいいって思ってたんだ。身長的にもちょうどいいし、モトは地味にしてっけど、あれで顔の作りは悪くねーしな」

「はあ」

「それにお前とコウで出ろよ。そしたら避けるとか関係なく話すしかなくなるだろ?」

「え! いやっ、それってつまり、女装するのは……俺、っすよね?」

「それくらい我慢しろよ。泣くほど辛いんだろ? コウに避けられたこと。女装なんかしてたら、怒ってたって笑っちまうって。そんで空気も和らぐから、そしたら謝れよ。それで元通り。な?」


 霧島さんがそう言って笑うと、そうなるような気がしてくるから不思議だ。本当に元に戻れるなら、女装だろうが何だろうがしてやる。嫌だけど。でもどうせ、俺がやらなきゃモトがやることになるんだ。それなら、嘘でも竹下さんとカップルになれる、とか妙なとこでポジティブ発揮してみよう。


「分かりました。俺、やるっす」

「よし! じゃあ当日のメイクと衣装は任せとけ! ま、学祭まであいつが意固地になったままだとは思わねぇけどな。そうなったらそうなったで仲良く出場しろよ」


 そんなことを言って笑いながら、霧島さんが携帯を取り出した。どこかへ電話をかけるようだ。霧島さんの人脈は計り知れないからな。俺みたいな男でも着られる女性の服を電話一本で調達出来たっておかしくない。


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