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「今日の日替わり何だろうなー。肉食いてえ、肉」


 毎日肉、肉と言っている友人が今日も肉食いてえと言いながら食堂の戸を開けた。日替わり定食のサンプルは魚料理だった。じゃあ今日はラーメンだと友人が言った。


「おーい、ユキー!」


 自分を呼ぶ声がした。そっちに目を向けると、手を振る霧島さんと、その隣に座る竹下さんがいた。
 竹下さん……会うのはあの日以来だ。


「ごめん、先輩に呼ばれてるから」

「おう。また後でなー」


 友人に断って、竹下さん達のいる方に行こうとした。でも足がその場から動かなくなる。竹下さんが俺の方に向かって来ていたから。
 竹下さんとの距離は数メートル。だけど、竹下さんと目が合うことはない。竹下さんは俺の方に歩いて来てくれた訳じゃない。俺の後方にある食堂の出入り口に向かっているだけだと分かった。


「あの……っ」


 すれ違う時、何とか声をかけることが出来た。それでも俺の声は聞こえなかったみたいに竹下さんはそのまま食堂から出て行った。
 避けられていると確信した。


「なんつー顔してんだよ」

「霧島さん……」

「とりあえず、座るぞ」


 呆然と立ち尽くしてしまっていたらしい俺のそばに、霧島さんが来てくれていた。ポン、と軽く頭を撫でるように叩かれる。ああ、だめだ。泣いてしまいそう。


「コウと何かあった?」

「俺が、気に障ることしちゃったんすよ。竹下さんに避けられても仕方ないっす」


 俺は選択を間違えた。キスしようなんて、ただの冗談で、俺はあの時、拒否しなきゃいけなかったんだ。『何を言ってるんですか。悪い冗談はやめて下さいよ』と笑って済ませなきゃいけなかった。
 なのに、俺はして欲しいって思ってしまった。キスして欲しいって。一生の想い出にするからって。そんな浅ましいことを思ったから、竹下さんに伝わってしまったんだ。俺が男とでもキスが出来る男だって。


「何したか知らねえけど、謝ればいいだけじゃねーか。コウは普通に許すと思うけど?」

「でも……避けられてるのに、近付く勇気ないっすよ」

「じゃあどうすんの」

「どうするって、そんなの……」


 元に戻るだけだ。ただ遠くから竹下さんを眺めてた頃に。それだけだ。


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