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「そういや、里中教授が冬休みに現場に付いて来ないかって。まあ研修っつーか雑用が欲しいってだけなんだろうけど、俺とお前二人で」

「冬休みに?」

「12月23日から、1月6日まで。場所は茨城だと。泊まるとこは用意してくれるらしいし、バイト代もくれるってさ。教授に気に入られといて損はねえし俺は行くけど、お前はどうする?」

「12月23日からって……クリスマスもろに被ってんじゃん。女と遊ばねえの?」


 24日は雪田と約束してる。俺の誕生日プレゼントにって、俺から誘った。デートしようって。キャンセル不可だって。


「断る理由が出来て、逆に好都合。クリスマスは去年で懲りた」

「あー、一人まじになっちゃった女いたな。デートはしごしてんのも知らずに。ほんと、酷い男だな」


 酷い男? 俺が言えたことかよ。もう気持ちは傾いてる。研修なんて名目を与えてもらえることに感謝してるくらいだ。


「んで、どうすんの?」

「俺も行くよ。明日にでも教授に会って詳しく聞いておく」

「おっし。これでホテルでも退屈しねーな」


 笑うじゅんぺーの顔を直視出来ない。俺の顔は今どんな表情をしているだろう。雪田との約束を破る。俺から誘ったのに。雪田もあんなに嬉しそうにしてくれてたのに。

 でも、もう雪田と二人きりでなんて会えない。これ以上雪田のそばにいたら、駄目になる。俺に優しくしないで。俺を肯定しないで。俺の全部を受け入れてしまうような顔で笑わないで。
 独占欲で狂ってしまいそうだから。


「その研修終わったら、こっち帰って来られるけど、コウはまたすぐ帰省しなきゃだし、結構バタバタだな」

「帰省? なんで?」

「なんでって、成人式だよ」

「……ああ。成人式、か」


 小学生の時、父親の不倫が原因で母親は出て行った。そして中学生の時、父親が一回り以上年下の女と再婚した。父親が41歳で女が24歳。お前ら馬鹿じゃねえのって思った。
 家に帰ると、その女が母親ヅラして構ってくる。正直鬱陶しいと思ってた。でも、それからしばらくして、俺の背が伸びて、子供から男に成長すると、その女は俺の前で女の顔をするようになった。それが心底嫌だった。軽蔑した。女の態度に気付いた父親は露骨に俺を煙たがった。若い妻を奪われるとでも思ったんだろう。
 家に帰りたくなくて、俺は学校が終わると外をブラブラしていた。それでも夜になれば家に帰らないといけない。家には俺を邪魔者扱いする父親と、俺に色目を使う継母がいる。息苦しくて仕方がなかった。

 最初は冗談みたいなもんだった。高そうなスーツ姿で歩いてる女に目の前のファミレスでメシを奢ってくれって言ってみた。すんなりOKされて、ファミレスじゃない良い店で食事した。ついでに泊めてくれと言うと、それも快諾。その女のマンションに行って、ヤって、寝て、朝そこから学校に行った。また来て、と連絡先を渡された。
 家に帰らないことなんて簡単だった。なんだか呼吸がラクになった気がした。

 高校を卒業して、大学の合格が決まってすぐに家を出た。父親は俺が進学して一人暮らしをすることを歓迎した。四年分の家賃と学費以上の金が入った通帳を渡された。これで最後。もう関わることはない。そういう意味だと理解した。
 一人暮らしを始めると、女の相手をする必要もなくなった。本当の自由を手に入れた。だからもう地元に帰る気は一切なかった。


「成人式、出ねーのか? 同窓会とかもあんだろ?」


 同窓会か。高校ならまだしも、中学のは出たくないな。そういうのには担任だった教師も来るのが通例だろう。ヤってた女と再会なんて勘弁だ。


「うん、どうしようかな。あんまり乗り気じゃない」


 成人式に出るとしたら、どこかのホテルを予約をしておかなきゃ。すごく仲の良かった人間がいるわけでもないのに、面倒だな。


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