22-2
「どっちから見よっか?」
「俺は、どっちでも」
「じゃあサスペンス物からでもいい?」
「はいっ。俺、飲み物入れますね。どれ飲まれます?」
「ジンジャー」
竹下さんは、炭酸だとジンジャーエールが好きだ。コーラ系はあまり好んで飲まない。ジンジャーエールが無い場合は、ファンタを選ぶ。果汁飲料はリンゴジュース。柑橘系は避ける。特にグレープフルーツ。……こういうこと、事細かに知ってるのって、気持ち悪いよな。でも、竹下さんはさっきのコンビニでも嫌な顔一つしないで、逆に俺の好みを聞いてくれた。優しいなって思う。
「あっ」
「ん? どうかした?」
ジュースが跳ねて、数滴こぼれてしまった。
「すいませんっす、ティッシュ貰えるっすか?」
「ティッシュ、えーっと……あー、あった。はい」
メタルラックの高い位置に、ティッシュ箱があった。これがニーナの部屋だったら、もっと手の届きやすい所に置いてある。枕元とか。
竹下さん家のティッシュ箱があまり使われて無さそうな所にあったことだけで、こんな下世話なことを考えてしまう俺って……ほんと、ダメな奴。
「れおって最初の新作情報見るタイプ?」
「あ。見たい、っす」
「ん、分かった。じゃあ俺ちょっとトイレ行ってくんね。れおも自由に使ってね」
「ありがとうございます」
DVDは前編で事件が起こって、後編で解決される形に分かれているようだった。前編が終わると、DVDを入れ替えながら竹下さんがこう言った。
「犯人分かったよ」
「えっ、まじすか」
「これ原作あるのかな? たぶん小説だったら気付かないようになってると思うけど、映像にしちゃうと矛盾させるわけにいかないから分かりやすくなってんだろうね」
「えー、俺全然分かってないっす」
「れおは鈍感だなー」
「う……」
竹下さんだって、鈍感っすよ。俺、こんなに好きなのに全然分かってないじゃないっすか。
「でも竹下さんが間違ってるかもっすよ?」
「あ、そういうこと言っちゃうんだ。いいよ。じゃあ、犯人の名前を今れおに送っとくから。終わってから見てみなよ」
俺の携帯が震えた。竹下さんからのメッセージ。何気に初めてだ。記念にあとでスクショ撮っておこう。
後編が終わり、全ての内容を把握してから、さっきの竹下さんの言葉を思い出す。小説だったら気付かない。その通りだと思った。映像な分、今思えばヒントはたくさんあった。
竹下さんからのメッセージを見ると、犯人はドンピシャ。
「いつ分かったんすか?」
「孫と犯人が初めて会話した時。俺けっこうミステリーとかサスペンス好きだし」
「すごいっすね!」
「見直した?」
笑ってそう言った竹下さんは、めちゃくちゃかっこいい。
「見直すなんて、元からめちゃくちゃ尊敬してるっすから!」
だから俺は何度でも、好きって気持ちが増すんだ。
- 86 -
[*前] | [次#]
[戻る]