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「お邪魔します」

「そんな畏まらなくていいって。とりあえず、クーラー付けるね。ああ、今グラス出すから適当に座ってて」

「ありがとうございます」


 竹下さんの部屋。二回目だ。やっぱ何かいい匂いする。竹下さんがいつも付けてる香水の匂いも少しする気がする。学内とか街中とか、ふわっとその匂いがすると竹下さんを思い出す。その度に、俺も同じ香水が欲しいって思うんだけど、匂いの記憶だけじゃ同じものを見つけられなくて断念してた。


「竹下さん」

「んー?」

「竹下さんが使ってる香水って……」


 と、半ば無意識の内に聞いてしまっていた。これって聞いていいこと? 同じのが欲しいなんて、気持ち悪いって思われるんじゃ……。


「ああ、これ」


 手に持っていたグラスをテーブルに置いて、香水を出して手渡してくれた。竹下さんが使ってる香水……見たこともないやつ。高いのかな、コレ。パコ、ラバ……? とりあえずボトルを覚えて、同じの買おう。
 使うのは躊躇うし、家でこっそり匂いを嗅ぐくらいなら……それって逆に気持ち悪い?


「れおは何付けてんの?」


 背後から、首筋に鼻を近付けられているのが分かる。一気に体温が上昇した気がする。やばい。


「お、俺なんか汗臭いっすから!」

「何それ。いい匂いするよ。何使ってんの?」

「えと。ジバンシイっす」

「俺、聞いても分かんないや。でも好きだよ、この匂い。甘くて、れおっぽい」


 一生この香水使おうって思った。


「知ってる? 香水ってさ、その人の体温とか分泌物とかによって匂いが変わっちゃうんだよ。だから……」


 竹下さんが俺の手ごと香水のボトルを握り込んで、もう反対の手で俺のシャツを捲った。


「こんな風に、れおが俺の香水使っても、それはれおの匂いになって、俺と同じ匂いにはならないんだって」


 シュ、と脇腹に香水がかかった。ふわっと香る香水の匂い。


「……でも、するっすよ。竹下さんの匂い。俺もこの匂い、好きっす」

「じゃあ、それあげる。使いかけで悪いけど、まだ買ってからそんな経ってないからあんまり減ってないし」

「えっ、いやそんな頂けないっすよ!」

「使ってよ。そしたら俺も嬉しいし」


 竹下さんが、嬉しい? じゃあ貰っとくべきなのか? 欲しいけどさ。買う気満々だったし、竹下さん公認なら、堂々と自分で買えば……


「その代わりさ、合コン行く時は絶対それ付けるって、約束してくれる?」

「合コンっすか?」

「うん。行くでしょ? じゅんぺーに誘われたら」

「まあ、はい。あんまり先輩の誘いを無下にできないっすから」

「そん時はコレ付けてよ。先輩からのお願い、無下にする?」

「俺は全然構わないっすけど……何で合コンなんすか? 女性に好まれる匂いとか?」

「そんな理由なわけないじゃん。つか、女受けする匂いなんかれおに付けさせたくないし」

「えっと、よく分かんないっすけど……竹下さんがそうしろって言うなら、俺はその通りにするっす」


 竹下さんと同じ香水ってだけじゃない。正真正銘、竹下さんが使ってた、竹下さんの香水。大事にしよう。たとえ空っぽになったって、飾っておこう。


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