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「次は、ケーキだね。あそこにあるのでいい?」
「はい! いい感じなお店っすね!」
チェーン店ではなさそうなアットホームさが雪田的にはいい感じなのかな。雪田の目を通して見たら、何でもいい感じに映るんじゃないかって、本気で思う。俺みたいな人間にも好意的なんだから。
「どれがいい? やっぱりホールだよね。このへんかな」
「でも二人で食うんすよね。竹下さんって甘いものあんまり好きじゃないっすよね?」
「え、ああ。そんなこと言ったっけ? まあ確かに生クリームとかはあんまり好きじゃないけど」
「じゃあコレどうっすか? フルーツタルト。これならそんなに大きくないし、二人でも食べられそうっす」
「れおはそれでいいの? 俺に合わせなくても……」
「これがいいっす! 俺、タルト好きなんすよ」
いい子だなあって思う。一緒にいるとあったかい気持ちになれる。雪田に出会えてよかった。なんて似合わないことを思う一方で、雪田が俺だけのものだったらいいのにって、独占欲に塗れたどこまでも俺らしくて汚いことを思う。雪田の優しさが、全部俺だけのためにあればいいのに。じゃないと、みんな雪田を好きになるんじゃないか。そんな馬鹿なことを本気で考えてしまう。
「ねぇ、ケーキ準備してもらう間に、あそこのコンビニで飲み物とか買って来てくれない? お菓子とか。うち何もないからさ」
「了解っす!」
「選びながら待ってて。俺もすぐ行くから」
「はいっ」
雪田が店から出るのを見送って、店員に声をかけた。れおが選んだタルトをバースデー用にしてもらうように頼む。
「ローソクはいかがいたしましょうか?」
「ああ……あ、その数字のローソク下さい。1と9で」
「かしこまりました。1と9でございますね?」
「はい。それで」
「もしよろしければ……」
メッセージを書くチョコレートのプレートも、形を選べると言われた。ハート型と星型の大小があるらしい。ただし、別料金。お金はどうでもいいけれど、ハート型にするのはありなのかな。
好きな子のバースデーケーキなんだから、ハート型にしてもいいんじゃないか。いや、むしろそうしたいと思う自分がいる。それに、そのプレートを見た時の雪田のリアクションにすごく興味がある。
「……じゃあ、ハートの大きい方でお願いします」
喜んでくれるかな。それともハートって何だよって引く?
とにかく、笑ってくれたらいい。何でもいいから、雪田を笑顔にしたい。誕生日当日じゃないけれど、いい誕生日だったって思って欲しい。
そしてできれば、来年の誕生日は、当日に祝いたい。二人で。
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