21-2
「ところで今日はどこ行くの?」
「えっ、あ……」
「無計画?」
「すみませんっす……。俺、竹下さんと出掛けるってだけで浮かれちゃって……」
今までの人生で、誰かを『可愛い』って思うことなんて一回もなかった。本当にただの一回も。
なのに、雪田に出会って、雪田を目の前にすると……いや、電話越しで声だけだったとしても、いつもいつも、可愛いって思わさせられる。
どれだけ俺を夢中にさせれば気が済むの。
「じゃあさ、何かDVDでも借りて、どっちかのうちで見ない? こっからだったら俺ん家かな。でさ、ケーキ食べよう。れおのバースデーケーキ」
「竹下さん……」
「だめ?」
「だめじゃないっす! 嬉しいっす!」
「よかった。じゃあ、まずレンタルショップ行こっか」
「はいっ!」
DVDは何でもいい。雪田と何かを一緒に選ぶってことだけで、楽しそうにDVDを観る雪田を見るだけで俺は楽しいと思う。
本当に俺らしくない。でも、こんな自分は嫌いじゃない。
「何観よっか?」
「えっと」
雪田の視線が一つのパッケージに向いて止まった。きっとそれが気になっているんだろう。でも言い出せないのかな。
そのパッケージに手を伸ばして、おもむろに裏面を見た。……うん。サスペンスなら俺も楽しめる。
「これ面白そう」
「まじすか! 俺もこれ観たいって前から思ってて」
知ってる。そうだと思った。
「じゃあこれにしよっか。ああ、前編と後編があるんだ。両方見るよね?」
「はい!」
「他には? 次はれおが選んで」
「あ、えっと、じゃあ……」
雪田が控えめに俺の前にパッケージを差し出した。ラブストーリーっぽい。前に少女漫画原作の映画で感動してたみたいだし、こういうの好きなのかな。
「うん、この二つ借りよっか」
パッと明るくなる雪田の表情。また可愛いって思った。
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