21-1
待ち合わせ場所には、約束の10分前に着くように家を出た。雪田のことだから、絶対に早く来てるんだろうとは思ってた。だからこそ、雪田が変に気を使わないくらいの時間になるように考えて、10分前にした。
でも失敗だった。着いたらナンパされてるなんて思いもしなかった。しかも雪田の方は全く気が付いてない様子だった。
なんでそうなの。自分が女にモテんだって自覚してよ。自分に近づいて来る女に下心があるんだってことくらい気付いてよ。じゃないと、気が気じゃない。雪田が一途なのは十分分かってるけど、想いが通じなくて辛いなって疲れてしまった瞬間に、どっかの女に優しくされてヒョイって掻っ攫われてしまいそう。
女だからって理由だけで、俺とはスタートラインが違うことに苛つく。異性ってだけで、雪田の恋愛対象に入ってんだもんな。俺とは違って。
「……髪、気付いてもらえるとは思わなくて、嬉しいっす」
顔を赤くして、ヘニャっと笑う雪田の可愛さは、正直やばいと思う。この笑顔だけでも俺はどうしようもなく可愛いと思うのに、なに顔を赤くしてんの。可愛すぎるでしょ。
俺と出掛けるからって、髪切って、普段は着ない服着て、オシャレしてくれたとか。もし許されるなら抱き締めたいなんて本気で思う。出来なくて悔しいくらいに。
「あーあ。俺もオシャレしてくればよかったな」
「竹下さんはいつもオシャレっすよ」
「そうじゃなくて」
雪田のキョトンとした顔。笑顔の次に好きかも。可愛い。
「今日はれおの誕生日のお祝いだから。いつもより気合入れてくればよかったって思ったんだよ」
途端にヘニャっとした顔になる雪田。その笑顔は俺以外に見せて欲しくないな、なんて。そんなこと無理だけど。
「竹下さんが、俺のために何かしてくれるなんて、まじ夢みたいっす」
「れおのためだったら、俺は何でもしてあげるけどね」
「もうそんな! 何言ってるんすか! ……あんまり喜ばせないで欲しいっす」
それは俺のセリフなんだけど。俺の言葉で照れちゃって、すげー可愛い。こんなリアクションされると勘違いしちゃいそうになる。俺のこと、好きなんじゃねえのって。
……そんなわけないのに。
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