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竹下さんと出掛ける当日。俺は待ち合わせ場所に、待ち合わせ時間の30分以上も前に到着してしまった。することも特に無いので、ソワソワしながら待っていると、二人組の女性から声を掛けられた。
「今ってお時間ありますか?」
「え……あるっす、けど?」
もしかして宗教の勧誘かなー。二人ともすげーニコニコしてるし。若いから……新興宗教、とか?
「ちょっと道が分かんなくて困ってるんですー。教えてもらえますか?」
「あ、あー! はい。俺が分かるとこだったらいいんすけど」
違った。すげー失礼なこと考えちゃった。
「そこだったら分かるっすよ」
女性が行き方を知りたいと言ったお店は、俺も一度行ったことがあるカフェだった。俺のシフトがバータイムだけだとしても、一応はカフェのスタッフなのだから、と美味しいコーヒーを淹れてくれるというお店に何軒か連れて行ってもらっている。
「もしよかったらなんですけど、今から一緒に行っていただけませんか? もちろんお代は私達が出します」
「え、今からはちょっと……道順、ちゃんと言うんで二人で行けると思うっすよ」
「でも私達、方向音痴で……」
「ごめん、遅くなって。行こう」
いつの間にそんなそばに来られてたのか、竹下さんの声がすぐ背後から聞こえた。
「行くよ」
手首を掴まれて、引かれる。足は素直に付いて行くが、口は反対のことを言う。
「あの、でも、まだ道を説明してないっす!」
「しなくていいよ。あんなのただのナンパだから」
「え!」
「あれくらいの年齢なら普通にスマホ持ってんでしょ。アプリで簡単に道くらい調べられるんだから、わざわざ若い男に聞く必要ない」
「あ、そっか」
「……あのね?」
竹下さんが立ち止まって、俺の手首を離した。なんとなく惜しい気分。
「れおはもう少し自分が女から好かれる見た目してるんだって、自覚した方がいいよ」
「いやいやそんなこ……」
「自覚しなさい。ていうか、今日すげー髪型キマってんね。襟足も少し切ったの?」
「え! 分かるんすか!?」
「分かるよ。服もいつもと感じ違うね。モノトーンじゃないの珍しいんじゃない? ……もしかして、オシャレして来てくれた?」
髪、サイド刈っただけで表面上はあんま変わってない。襟足だってほんとに少ししか切ってないのに気付いてくれた。
俺そんなはっきり気合入ってるって分かる? なんかそういうの恥ずかしいんだけど。
「服、変っすか?」
「そんな訳ないでしょ。すげー似合ってるよ。いつものモノトーンもいいけど、ピンクもすげーいいね。可愛い」
竹下さんが笑顔でそんなことを言うから、じわっと顔に熱が集まっていく。絶対、俺の顔赤くなってる。
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