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「ユキさ、無難な色の服ばっか手に取ってねぇ? もっと色んなの着ればいいのに。これとか」

「え、ピンクっすか。いやー、赤系の色は俺似合わなくないすか?」

「俺的には寒色より暖色のが似合う感じするけどなぁ。こういう淡いピンクのシャツ着て上にカーデ重ねて可愛く攻めるか、逆にこんな感じで中にがっつりVネック着て色気で攻めるかだな」


 洋服が綺麗に並んでいる棚の上で、実際に霧島さんの言う可愛いパターンと色気のパターンを見せられる。
 でもそれを着る自分がピンとこない。


「つか攻めるって……」

「だってデートだろ? 男がピンク着てんの好きな女の子って割と多いぜ?」

「……デートじゃないっす」


 デートだったらどんだけいいか。でもデート以上に気合い入れてたいな。
 竹下さん、たまに俺のこと『可愛い』って言ってくれるときあるし、霧島さんの言う可愛いコーデで行ったら、いいなって思ってくれるかな。
 霧島さんセンスいいし、自分では分かんないけど似合ってるってことあるし、思い切って任せちゃおうかな……。


「お。ピンク着る気になったか」

「霧島さんの見立てを信じるっす」

「絶対似合うから。デートに来て行けよな!」

「だから、デートじゃないっす……」


 霧島さんが勧めてくれた服を買って、霧島さんのお気に入りの居酒屋に行った。常連過ぎて『いらっしゃい』じゃなくて『おかえり』と言われていることに笑ってしまう。


「実際、好きな子とはどうなってんだ?」

「どう……っていうか、まあ、話せるようにはなりました」

「お前さ、正直に言ってみ? 距離縮まってさ、付き合いたいって思うだろ? その子と」

「……いや、そういうのは無理だって分かってるっすから」

「じゃあ、その子が別の誰かと付き合うことになったら、お前はどうすんだ?」


 ……嫌だ。嫌だ、想像したくもない。誰かのものになんかならないで。
 でも、竹下さんには好きな人がいるし、その人と結ばれて幸せになって欲しいって気持ちも本心だ。


「……祝福するっす」

「そんな泣きそうな顔して何言ってんだか。お前がお前の手で幸せにしてあげればいいだけの話だろ」

「俺は……後輩として、仲良くしていければ、それで」

「こじらせてんなあ」


 だって俺は男だから。
 竹下さんに好きになってもらえるはずがない。そもそも俺が女性に生まれていたとしても、竹下さんには釣り合わない。竹下さんには、竹下さんと同じように綺麗で優しい人がお似合いなんだ。
 俺にできるのは、独占欲とか嫉妬心とかそういうのを隠して、後輩としてでもいいからそばにいられるように頑張ることだけだ。


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