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「雪田もいたんだ。ちょうど良かった」
竹下さんの口から出た最初の言葉が自分の名前だったことに、嬉しくなる。
「ありがとね、今日。鍵返しとく」
「あ、はい。ありがとうございます。つか竹下さん、今日授業あんなら言ってくれれば俺起こしたっすよ」
「あー、でも来る気あんまなかったし」
「え、ちょ、待った待った! なんだその恋人みてえな会話は! なんだその鍵は!」
『恋人みてえな会話』という霧島さんの言葉にまた嬉しくなる。ニヤけそうになる表情筋を必死に抑える。
「雪田ん家の鍵。あ、そうだ。置いてあったメシも食わせてもらったし、お礼に今度なんか奢る」
「え、いいっすよ。そんなことでお礼なんて逆に申し訳ないっす」
あ。……しくじった。たった300円程度のことだろうが、『お礼に』って言ってくれてんだから、ガッついときゃよかった。竹下さんとメシなんかこの機を逃すと、もう一生無いかもしれないのに。
「俺がそうしたいから。雪田が嫌じゃないなら、メシ付き合ってよ」
「あ、はい! 是非!」
やった……っ! 竹下さんとメシ……!
いや、待て待て。社交辞令かもしれないんだから、あんまり期待するなよ、俺。そもそも、お互いの携帯番号すら知らねえんだから、メシなんて夢のまた夢。叶ったとしても学食か、学内のカフェだ。
「メシって言えばさ、今日も合コンあんだわ。コウも来る? ユキは来るって」
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