何でもええ




 花月さんと、山下が襲われた。
 俺の頭の中はもう、山下のことでいっぱいで冷静になれそうにない。

 最初から、分かっとったはずやった。山下を拾ったあの時から、いつか戻れへんようになる前に、親御さんの元へ帰したらなあかんと思っとった。
 花月さんの護衛に付いた時から、一番危ないのは山下やと本人ですら自覚しとったのに。


「風見、聞いとったやろ。こっから最短で帰る移動手段を押さえろ」


 ……甘かった。俺はとことん甘い。

 山下を真っ当な生活に戻してやりたいと思いながら、自分を慕ってくれることに喜びを覚えて手放せへんまま、ズルズルズルズル、こんなことになってしまうまで……何やっとんねん。俺は。
 山下がもし、このまま、どうにかなってしまったら。俺は、どうしたらいい? 親御さんに何て詫びたら? こんな道へ引きずり込んで、いつまでも手放さんとそばにおいて、危険に晒して、どうやって、何をして償えばええんや?


「風見! 聞いとんか返事せえボケ!」

「す、すんません。聞いてませんでした」

「今グダグダ後悔してもしゃあないやろ。ああしとったらこうしとったら言い出したら俺かってキリ無いわ。せやけど今はそんな場合ちゃう。さっさとあいつら助けに行かんと状況は悪うなるばっかりやろ。よお考えろ。今何をすべきやねん?」

「……組長、飛行機でも構いませんか?」

「何でもええ。どんな席でも構わん」

「すぐに手配します」


 そして空港に向かう車内で、組長は誰かに電話をかけた。内容は花月さんの居場所について。花月さんの持ち物のいくつかにはGPSが取り付け済みやから、調べれば居場所は簡単に分かる。
 問題は、花月さんがどんな扱いを受けとるか。相手が何人おって、どんな武器を所持しとるか。それから、花月さんがほんまに大人しくしてくれとるかどうか。


「俺が金で買うた言うて拉致った時もギャーギャーやかましかったし、鳴海の話では借金の取り立てに来とったもんに対しても言いたい放題やったらしい。まあ、今回も喚き散らしとるやろうな。山下のこともあるし、平常心ではおられへんやろ」


 と、組長が言ったのに対して、電話の相手が何て言ったんかは分からん。けど、どうやら同意はされんかったらしい。


「ほんまにあいつがそんな状態やったら、俺はどうしてやったらええねんやろうな」


 その声は組長らしくないほどに弱々しくて、聞いとるこっちが辛かった。
 きっと組長は、花月さんを手放す。
 そう感じた。


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