大人しいしとくんやぞ




 結城に電話で助けを求めよう。それしか頭になくなった。とにかく結城に電話。それだけ。


「花月? どうした?」


 電話を掛けること自体が珍しい俺からの着信に驚いたような声の結城。俺は何から伝えていいんかも分からんまま、思い付いたことから全部言う。


「結城! 山下さんが、手刺されて、ほんで血が、いっぱい! ほんで、今逃げとって、俺だけ! 山下さんが1人で! どうしよう! 山下さんが!」

「落ち着け。今はどこやねん?」

「今、大学! 大学の駐車場で山下さんが刺された!」

「ほんでお前は今1人で逃げとる最中なんやな?」

「うん、どうしよう! 俺、山下さん残して逃げてもうた!」

「それでええ。山下はお前を守るためにそばにおったんや。それに、すぐ大学に人をやるから、山下は大丈夫や。心配せんでええ。とにかくお前は人の多い方に逃げろ。ほんで見つからんように隠れとけ。逃げれんかった時は抵抗せんと大人しく捕まれ。分かったな?」

「捕まるん?」

「そうや。絶対に抵抗すんな。捕まってもいらんこと言うて相手を煽んな。大人しいしとくんやぞ。すぐに迎えに行くから安心せえ。絶対に俺が助けに行く」

「……分かった。ぜっ、あっ!」


 『絶対やで』と結城に伝えれんまま、俺は捕まった。
 すぐに携帯を奪われて、その場で真っ二つに折られた。結城と色違いの携帯。大事にするって言って、ほんまに傷一つ付けんと扱ってきた携帯。さっきまで結城と繋がってたそれが真っ二つで地面に転がる様を見て、俺の心まで折られたような気になる。
 両腕を2人の人間にそれぞれ掴まれて、どこかに連れて行かれながら、ずっと携帯を目で追った。

 結城に連れて行かれた時は、大切なもんでも扱うように優しく抱かれてたなあ、とかそんなことを思い出した。


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