舐められたもんじゃ




「……何じゃ、巽。こんな時に来おって」

「いらんことぬかすなよ。何が大事かはちゃんと分かっとる」

「お前らは本当によく似た性格じゃのう」

「そんなんよう言うたな。俺をこう育てたんはじじいやろが」


 一を聞いて十を知るというか何というか、話の内容だけ聞くと、意味は分からんでも和やかな印象を持てるんやけど……。なんせ空気が重い。
 五代目、若、そして件の侠心会の会長である田辺さん。その3名がおられる広間へズカズカと入った組長に一番に声を掛けられたのが、五代目やった。
 おそらくこれは考えられへんことやと思う。野田組の本家へ来たんは初めてでも、田辺さんに会ったんは初めてやない。とても気さくな方で、そして組長をほんまの弟のように可愛がっておられる田辺さんが、わざわざ関東に出向いた組長に声を掛けへんどころか、一瞥することすら無いとか。……あー、胃痛い。めっちゃ帰りたい。


「監視カメラの映像は全員見たんか?」

「当たり前でぃ。腸が煮えくり返りやがらぁ」

「俺にも見させてくれ。あと清次さんさえ良ければ、コピーが欲しい」

「勝手にしやがれ。俺ぁそいつらぶち殺せりゃあそれでいい」


 しーんとする室内。自分の呼吸の音が響くような気すらして、満足に息を吸うこともできへん。それくらい俺はこの場に相応しくない。


「じじいはこの件、それで済ませてええ思とんか?」

「……ふん、侠心会に手を出されるとは舐められたもんじゃ」

「組長! だからこそ俺ぁそいつら見つけ出して殺してやるって言ってんでさぁ! こんな所に閉じ込めてねぇでさっさと行かせて下せぇ!」


 自分の組の幹部の店に襲撃されたことが恥ずかしくて、それを許した自分自身をそれこそ殺したいほど腹が立ってしゃあないんやろう。だからこそ、自分の手でとっ捕まえて、見せしめにして、今後そんな輩が出んようにと考えておられるんやろう。
 舐められたら終わり。田辺さんは少し良い人過ぎる面があるから、そんな自分を悔いておられるんかもしれん。


「清次、勘違いすんな。お前のことじゃねぇよ」


 今まで一言も話さんかった若が口を開いた。というか、話を聞いとる風やなかったから、ちょっと驚いた。


「舐められてるっつったのは、じいさん本人と俺のことだ。じいさんみてえな老いぼれと、俺みてえな若造がトップにいるから舐められてんだよ。侠心会を任せんのは、野田組の組長や若頭である俺らが一番信頼してる奴だ。だから、侠心会に手を出されるっつーのはそういうことなんだよ」


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