変なのがいてさ




「あっ! 巽さん! 来てくれたんだ。助かったー!」


 本家に上がり、五代目がいらっしゃるであろう広間に向かう途中で、鈴音さんに出会うた。若の特別なご友人であり、五代目や組長を顧客とする特殊な稼業を営む方。俺も一応腕には自信があるからと一度手合わせをしたことがあったけど、全く歯が立たず、ただただ翻弄されるだけやった。
 そんな彼が組長の登場に心底ホッとしたような表情をしたところを見ると、組長の想像通り、本家はどえらい状態なんやろうと察しがつく。ただ本家に上がるだけでねじくれたように痛む胃が、さらに痛みを増した気さえする。


「様子はどうや?」

「五代目のじいちゃんとタロは割と冷静だけど、全員捕まえて殺さねぇと示しがつかねぇってさ。清次さんは既にその方向で人動かしてる。で、自分も出るって言ってんだけど、じいちゃんもタロも『それは駄目だ』の一点張りでさー。ギスギスしてんだよね」

「お前の考えは?」

「まだ何も。監視カメラを見た感じじゃ、襲撃犯は大した奴じゃねえよ。客を装ってバーに入って、幹部にスタンガンくらわせて動きを鈍らせてから2人がかりで蹴りまくってた。それがさ、慣れた感じが全くないんだよ。まるでその辺にいるようなチンピラと何も変わんねえ。でも1人だけ変なのがいてさ。騒ぎに気付いて止めに入った奴らをナイフで躊躇いなく刺すんだよ。そいつのせいで重傷者が3人出たんだ」

「2人がかりで蹴られた幹部は軽傷っちゅうことか」

「うん。でもリーダーは確実に幹部を蹴ってた内の1人だよ。だから、狙いが何だったのかよく分からねえんだ。……これは勘だけど、本当は侠心会の幹部が狙いじゃなくて、もっと他にあるんじゃねぇかなって思ってる」

「そうか」

「だから、巽さん。念のため巽さんとこの人達にも注意するよう言っといて。あのナイフの奴は、まじで普通じゃないから」

「あとで鳴海に電話しとくわ。それと、できたらでええねんけど、そのカメラの映像も鳴海に送れるか?」

「え、あー。どうだろ? 清次さんに聞いてみてよ」

「ま、そうやわな。ほな行くわ。まずはじじいに風見の顔見せに行かなあかんからな」


 ギリギリ。そんな音がしそうなくらいに、俺の胃が痛む。ちょっとでも気を抜いたら今にも吐きそうや。幸か不幸か、気を抜くことすらできへんのやけども……。


「緊張しなくても大丈夫だって、風見さん。じいちゃん普段は優しいんだからさ!」

「……はい」


 あなたみたいに心臓に剛毛がボーボーに生えとるような人間と、俺を一緒にせんといてほしい。心の中でそう思った。


- 86 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -