俺についてこい




 組長が結城組の跡目を相続するということになった時、先代のご子息であることと、野田本家で育ったことで認める組員もおる中、反発ももちろんあった。実子に跡を継がせるなど……そもそも結城巽という人間は結城組の組員ですらないやないか、と。
 そんな反発を組長はいっぺんに黙らせた。

 その当時、結城組で最も力があり、最も次期組長に近いと言われていた男を、飾ってあった長ドスで掻っ捌いた。文字通り、ばっさりと。
 大勢の組員の前で、噴き出した赤黒い返り血を浴びながら、表情一つ変えんと組長は言うた。

『他に文句のあるもんは?』

 誰も何も言えんかった。言うた瞬間、自分もああなる。それが容易に想像できた。

『俺が組長になるんは決まったことや。嫌なんやったら今言え。今の内に言うたら、ここで楽に死なしたる。盃事が済んだら終いやぞ。嫌でも死ぬまで俺についてこさせる。その代わり、ええ思いさせたる。忠義なんぞ今は無うてええ。お前らは金や地位のために俺についてこい』

 あれから3年。組長の言葉通り、二代目結城組は多くのフロントを得て、多くの金を手に入れた。それは組長が学んできた経営学や帝王学と、かしらの法律家としての手腕に寄るもので。お二人を若造と揶揄する人間はすぐに1人もおらんなった。

 結城巽という人間は、自己中心的で、気に入らんことがあったら、即座に手が出る乱暴者。というのが基本スタイル。長年のご友人であるかしらでさえ、一度不興を買い、左の肩口から鳩尾近くまでばっさりと切られたことがある。そばにおった俺の顔に刀身から飛んだかしらの血がついて、その生温さと対照的な組長の冷たい目に五代目を見たようで戦慄した。
 なんで、かしらが組長の不興を買うたんか。それは利益のために組員を捨てるようにとかしらが進言したせいやった。

 結局のところ、組長は情に厚い。結城組を継いだんもおそらくは先代か五代目、もしくは野田の若様への義理立て。花月さんのこともそんなところやろうと思う。
 そんなお人やからこそ、事情が分かった途端に関東へ行くと言い出したりする。襲撃を受けた侠心会の会長は組長の五厘下りの兄弟で、子供の頃から兄貴として組長が世話になったという人物。そんなん言われたら、組長のお人柄を知るかしらは『どうぞお好きに』としか言われへん。

 ただ、これも結局のところ、かしらも俺も組長のそういうところが好きなんやから、どうしようもない。


- 85 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -