嬉しそうな顔すんな




「山下さんは?」

「先帰らせた」

「何で? 結城も一緒に、山下さんに乗せて帰ってもらうんやと思てたのに」


 男手一つで育ててくれた親父を亡くしたり、ヤクザに金で買われたり、俺を産んでくれた母親のことを知ったり、その母親よりヤクザのそばにおることを自分で選んだり……色んなことがあり過ぎた夏休みが終わって、俺はまた大学に行き始めた。
 前期までと違うのは、電車通から車での送り迎えに変わったことと、送り迎えをしてくれる山下さんが、ずっと大学におって常に俺を見てること。山下さんは若いから、大学におっても学生に見えんこともないんやけど、どうやって大学におることを許可されたんかっていう話。山下さんの車を置いとくスペースまで用意されてるし……やっぱ、金に物を言わせたんやろうか。


「今日は俺がお前を連れて帰るからええねん」

「え、そしたら今、車で誰か待たせてんちゃうん。早よ飲め。そんな味わうもんちゃうし」

「誰も待ってへん。ゆっくり飲ませろ」

「え?」

「え、て何やねん」

「それって、誰かにここまで乗せて来てもらったんやなくて、結城が車を運転してきたってこと?」

「それが何やねん。運転くらいできるに決まっとるやろ」

「え?」

「あ?」

「怖い顔すんのはやめて」

「お前こそ鳴海みたいなこと言うんやめろ。気分悪い。俺が運転すんのがそんなにおかしいか」


 おっと。これはほんまに不機嫌な時の顔と声や。鳴海さんに同じようなこと嫌味っぽく言われたんかな。鳴海さんって結城に嫌味言う時めっちゃ楽しんでる感じするし。ほんま仲良しやと思うわ。
 何でも言い合えるっていうか、お互いをよく知っとるんが分かるもん。なんかそういうの、羨ましいし。


「いっつも誰かに運転してもろて、後ろで踏ん反り返っとるから、ちょっと変に思っただけやん」

「踏ん反り返っとるは余計じゃ。ほんまお前、鳴海に似てきたな」

「え? ほんま?」

「嬉しそうな顔すんな。……何を目指しとんねん」


 その心底嫌そうな顔が、やっぱり仲良しなんやなぁって感じで羨ましい。俺も結城のこともっと知りたいし、何を考えとんのかとかすぐ分かるようになりたい。
 鳴海さんは結城の顔見んかったって、結城のこと言い当てたりするらしいからなぁ。いいなぁ。俺もそんな熟年夫婦みたいな関係になりたい。
 ……ふ、夫婦って。別に、そんなん、ほんまに望んでんちゃうしな。例えばの話。例えば。


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