馬鹿ですか?




「おい」

「おい、て……何やねん」


 いつだって自分が正しいと、それだけで進んで来たじゃないか。その背に付いて行く人間が、どれだけいると思ってる。


「あなたがその程度の男であったと、私に失望させるおつもりですか? 鬱陶しい」

「あぁ?」

「どうせ悩んでみた所で、自分に都合の良い結論しか出さないくせに、うじうじうじうじと心底見苦しい。結城巽という人間は欲しいもののためならどんな手段でも取る男です。無理矢理にでも全部手に入れてこそ結城巽なんです。そんなこともお忘れですか? 馬鹿ですか?」

「喧嘩売っとんかお前コラ」

「花月さんにとってあなたが金銭を与えてくれるだけの存在なら、他の価値を付ければいいだけの話でしょう。何でしたっけ? 優しくしたいとかなんとか? すればいいいじゃないですか。あなたにできるかは別として。誰よりもあなたが花月さんに優しく接してあげればいい。花月さんの望みを何でも叶えてあげればいい。あなたにはそれができる力がありますよ。そうでしょう? あなたがヤクザであることは変えられないんですから、その害ある存在である以上の何かを与えてあげればいいでしょう?」

「……」


 結城が黙って私の話を聞いている。
 ……珍しい。


「ちなみに今、花月さんを1人にしてしまっているのは、あなたですよ。可哀想に……あの広い部屋に、深夜、ひとりぼっちにされて」


 ガバッと上体を起こす結城。『そう言われてみればっ!』とでも言うような感じである。


「……帰る」

「タクシー呼びましょうか?」

「いらん。自分で運転してきた」

「……あなたが?」

「運転くらいできる。俺を何やと思とんねん」

「お尻から根っこが生えた出不精人間」

「帰る」

「お気を付けて」


 『フン』と鼻で笑って帰って行く。心にも無いことを言うなと、伝えたいのだろう。

 確かに。思っていない。


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