ショックてなんやそれ
マンションのフロントと繋がる電話が鳴って、思い浮かんだのは結城だった。私の部屋に訪れる人間など、ものの数人ほど。そして前持って連絡を寄越さないのは、結城だけだからだ。
「通して下さい」
コンシェルジュに来訪者を通すように伝える。小一時間前まであの気難しい顔を見ていたというのに、なぜわざわざ自宅にまで来るのか。部屋のインターホンが鳴ったので、ドアを開けに行く。
「何か言われる前に言っておきますが、花月さんの母親のことを調べるように言ったのは、あなたですからね」
「言われんでも分かっとる」
「ならいいんです。どうぞ」
結城を中へと促す。気だるそうに靴を脱いで、リビングへと足を進める。そして、自分の部屋のようにソファにドカッと腰を下ろして、そのまま横になる結城。
「何か飲みますか?」
「いや、ええわ。……はあ」
溜め息。
結城が溜め息を吐くというのに違和感を感じる。
「花月さんの母親の件、そんなにショックでしたか?」
「……はっ、ショックてなんやそれ」
「じゃあ、花月さんと何かありました?」
結城は少し考えている顔をする。言っていいのかどうか逡巡している様子だ。これもまた結城の行動としては違和感。
「……俺と一緒におりたいって言われたわ」
「よかったじゃないですか」
「どこがやねん。そんなん言われたら、ほんまに手放せへんなる」
「手放す気があると?」
「当たり前やろ。俺の存在があいつにとって、なんかプラスになるようなことあるか? 俺があいつにしてやれることは、金を使うことだけや。借金も学費も生活費もなんもかんも全部俺が面倒見るって大義名分があるから、俺はあいつのそばにおれる。あいつの弱味を握った振りして、あいつをしゃーなし助けたる振りして、無理矢理縛り付けて、ほんであいつに嫌がられへんかったら、自分を抑える自信ない」
「でも、そばにいたいと望まれて、嬉しいんでしょう?」
「……昨日までの俺やったら、アホみたいに喜んだやろうな」
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